血の味のする恋を知る



その中で異彩を放ち、美しく佇む人物に目が釘付けになる。


月光を弾きキラキラと輝く長い髪は純白で、こちらを一瞬こちらを流し見た切れ長の瞳は宝石の様な紫なのに瞳孔は血のように赤い。温度を感じさせない大理石のような肌に薔薇の花びらを思わせる唇が柔らかな弧を描いている。


息を呑むほどに整った顔立ちと同じぐらいに目を惹くのはこめかみから左右に生えている黒瑪瑙のような角だ。あえて例えるのなら山羊のそれにも似ているが、目の前の人物のものはそれよりも大きくて立派に見える。


元の色が何だったのかわからないほどに血に染まっている服はそれでも元は豪奢だったのだろうと予想がつくほどに優美で豪華な刺繍がたくさん刺されていて、時折ちかりと月明かりで光った。


背は高いがどちらかと言えば華奢にも見える体躯なのにその右手は軽々と壮年男性の胸あたりを貫いて掲げている。すでに絶命しているのだろう、人形のようにぶらぶらと足が揺れていた。


ずるり、と粘着質な音と一緒に無造作に手が振り払われて生臭い風が頬を掠ったと思えば質量のある音と水音がすぐ側で聞こえた。べちゃりと顔と体の右側に生温かい液体が触れる。


それがさっきまでぶら下がっていた人……わたしの父のものだとわかったけれど、それでもなおわたしの視線は血に塗れた麗人から外せなくて。


その人の右手の中にある未だ脈打つ赤黒いものが淡く色づいた唇に触れる。人間のものよりも鋭い真珠のような歯で噛みちぎられ、艶かしい舌で嬲られ、咀嚼され、啜られ、飲み込まれる。口の端から溢れる深紅と肌の白さの対比がぞくりとする程に艶麗だ。


多くが凄惨な状況だと言うに違いないのに、わたしにはこれがどうしようもなく尊く、神聖な儀式に思えて、無意味に刻んでいた自分の心臓が生まれて初めて激しい感情を伴って脈打つのを感じた。




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