血の味のする恋を知る



恍惚としてこの光景を邪魔しないようにとわたしが息を潜めていたにも関わらず無粋な悲鳴が上がり苛立ちで眉を顰める。


腰が抜けたのか床に直接座り込み、返り血で汚れたドレスを乱しながら、ぎゃあだのきゃあだの、助けてこっちにくるなと喚いて泣き叫んでいる姿は昼間朗らかに談笑していたような上品さなどかなぐり捨てている。


………あぁ、この人はわたしの母と妹だっただろうか。朧げな記憶ではいまいち確証が持てないが、使用人には見えないし父のことを呼んでいるので間違いないだろう。


その奥には片腕を無くして真っ青な顔をした血だらけの兄がいる。他にもまだ生きている人間はいるがそのほとんどが虫の息で、放っておけばその内死ぬだろう。そこにさしたる感慨はない。


手足のないもの、首の飛んでいるもの、臓物を撒き散らしているものなど周りに散らばっている死体は様々だ。父と同じように心臓を抉られている死体も少なくない。あぁ、あそこに転がっているのは祖父母かな。あの2人も父と同じように死んだらしい。


強いて言えば使用人よりも親族の方が心臓を取られているな、と冷静に思っていればわたしに気づいた兄に「こっちに来て俺を守れ!!!」と掠れた声で怒鳴られた。


母と妹もその声でわたしに気づいて救いを見たようにこっちに来て自分達を守れと叫ぶ。どれも初めて聞くような恐怖にひび割れた声だった。


けれど、



「…………………なぜ?」




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