離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 何度だって思う。あのときの私の子供じみた行動が今この不幸を引き起こしたのだと。

 なぜ、こんなに私のことを大切にしてくれている彼を信じられなかったのかと。
 
 胸が苦しい。けれど玲司のほうがもっとつらいのだ。私が悲しむわけにはいかない。

 泣きそうになるのを我慢して私も笑って見せた。すると点滴が刺さっている手を彼が私のほうに差し出した。

「手、触ってもいい?」

 彼は瞬きでうなずいた。

 その手を触って驚く。いつもはすごくあったかくて力強いのに、冷たくて力がない手。

 彼の状況を理解していたつもりだったが、あらためて彼にどれほどのダメージがあったのか実感した。
 
 私にできるのは、元気づけることくらい。
 
 だから彼の前では絶対に泣かない。それだけ心に強く誓った。
 
 ギュッと握るとちゃんと握り返してくれた。彼は強い人だ。だからきっとこの困難を乗り越えてくれるだろう。
 
 前向きにならなきゃ。自分にできることがなんなのか考えて少しでも彼の力になれることを選んでいかなくちゃ。
 
 言葉はなかったけれど、きっと私の気持ちは伝わっただろう。
 
 看護師さんにそろそろ時間だと言われ、私はうしろ髪ひかれる思いで病室をあとにする。ゆっくり休んで、早く元気になってほしい。
 
 そうすれば今よりもふたりで過ごす時間が増えるはずだ。
 
 私は泣きたくなるのを我慢して、顔を上げて廊下を歩いた。泣く前にすることがあるはずだ。
 

 まずは家に帰ってご飯をもりもり食べた。お腹がすいている感覚なんてこれっぽっちもなかったけれど、彼は敏いので私の様子がおかしかったらすぐに気がつく。
 
 私のことで心配かけたくない。だからこそ、彼の前では元気な自分を見せたい。
 
 初日に一番つらかったのは、ひとりでベッドで眠ることだ。

 数日前までは彼の腕の中で眠り、腕の中で目覚めていたのに。冷たくて広いベッドに横たわると自分がどれだけ彼に守られていたのかということを実感する。

 にじんだ涙を拭って、私は襲いかかってくる恐怖に耐えながらなんとか眠りについた。

 翌日も彼に会いに行った。面会時間は限られているけれど少しでも長い時間彼に会えるように早めに準備をして病院に向かう。

 病室の前まできて違和感を持つ。入口にあるはずのネームプレートがない。中に入ってみると玲司の姿がない。

 廊下に出てそこにいた看護師さんに確認する。
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