離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
自分の身の回りに起こっていることが、非現実に思えた。つい数日前まで幸せだったあの日々は幻だったのだろうか。
どんなに前向きでいようとしても、こんな状況では難しい。本当の私はそんなに強い人間じゃないから。
病院を出てとぼとぼと歩きながら、これからどうしたらいいのか考える。このままでは完全に向こうの言いなりになってしまう。
たとえ彼と離れるとしても、せめてちゃんと話をしたい。数日前話を聞かずに飛び出したことを心から後悔している。
玲司……痛みは少しはマシになったかな。点滴は減ったかな。いつになったらご飯食べられるようになるんだろう。許可が下りたら差し入れも持って行きたい。
我慢していたはずの涙が、彼のことを思うとあふれ出した。私はぼたぼたと涙を流して歩き続けた。
なぜ最愛の夫の大変なときに、そばにいることすらできないのだろうか。せめて元気になるまででもいいから、そばにいたいと思う事すらゆるされないのだろうか。
自分がちっぽけなものだと思い知らされて、情けなくて悔しくて涙が止まらない。
結局私が彼のためにできると思っていた、明るく彼を支えるということは尾崎さんの言葉通り〝なんにもできない〟ということだ。
でもあきらめられない。玲司……せめてケガの状況だけでも知りたい。
どうすれば彼に会えるのかそれをひたすら考えていたとき、私の目の前に一軒のお店が現れた。ショーウィンドウの中には革の小物が並んでいる。どれも素敵で目を奪われた。その中でも一番気になったのはキーケースだった。
現実から逃げ出したくて、ふらふらと店内に入る。狭い店内で商品の数も少しだったが、商品のひとつひとつが素人が見てもわかるくらい丁寧な造りだった。
奥にある工房から、五十代くらいの男性が出てくる。
「いらっしゃいませ。気になるものがあれば手にとってくださいね」
にっこりとほほ笑みかけられた私は、さっそくショーウィンドウに飾ってあるキーケースが見たいと男性に告げた。
「どうぞ」
渡されたキーケースはそれほど大きくなく、しっくりと手になじむ。
「革製品のいいところは、使えば使うほど変化するのを楽しめることですね。劣化とは違います。変化なんですよ」
「そうですね」
たしかに色が変わり、普段使っているとますます自分になじんでくる。
「世界中でただひとつの自分だけのものになりますから」