離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 世界中でただひとつのもの。私にとってその言葉が当てはまるのは玲司だった。誰もなにも彼の代わりにはならない。

「それください」

「はい、名入れもできますけど」

「そうなんですか? じゃあお願いします」

 玲司は必ず元気になる。そしてこれに車のキーをつけて私をまたドライブに連れていってくれるはずだ。

「どなたかにプレゼントですか?」

 刻印をどうするか決めているときに、店主に聞かれた。

 そのときの私は誰かに話を聞いてほしかったのか、これまでの経緯を見ず知らずの人に話しはじめた。見ず知らずの人だからこそ、話ができたのかもしれない。

「夫なんです。でも事故に遭ってしまって。もしかしたら今まで通り歩けなくなるかもしれなくて……」

「そうだったんですか」

 店主もいきなり話を聞かされて迷惑だっただろう。しかし私を慰めるようにじっと話を聞いてくれた。

「でも大丈夫です。夫は強い人なので。それに私もほら、できることはなんでもするつもりですから」

 バッグから本を数冊取り出す。さきほど病院に行く前に寄った本屋で買ったリハビリの本が数冊入っていた。

「そうですか。それならご主人も心強いですね」

 優しくうなずかれて私は泣きそうになる。

「元気になったら、きっと大好きなドライブに行きたがると思うんです。だからキーケースをプレゼントしようと思って」

「いいアイデアですよ。きっと喜びます」

「そうだといいんですが」

 なんとか笑って見せた。

「心を込めてお作りしますね」

「はい、お願いします」

 私は刻印する彼の名前を申込用紙に書き、そのあと住所や名前など必要事項を記入する。

「一点、一点、手造りをしていますので、できあがりまでひと月ほどお時間いただきますが、よろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

 彼が早くよくなるようにと願いを込めて、私は革のキーケースをオーダーした。

 店を出ると、晴れやかな空が広がっていた。

 それまでずっとうつむけていた顔を上げて、気持ちを切り替えた。めそめそしていてもなにもはじまらない。

 なにかあるたびに落ち込んでしまうけれど、それでも気持ちを整理して前に進むしか今の私にできることはないのだから。

 とりあえず自宅に向かって歩いていると、スマートフォンが着信を告げた。急いで画面を確認するとお義母さんの名前が表示されている。

「お義母さん!」
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