離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 ちらっと視線を尾崎さんに向ける。彼はその視線に気がついている様子だったが、気にも留めずに私たちの前にお茶を置いたあとお義母さんのうしろに立ち静かにこちらを見ていた。

 その様子がまるで監視されているかのようで怖い。

「琴葉さん」

 私の名前を呼んだお義母さんが、いきなり立ち上がったかと思うとその場にひざまずいた。

「お義母さん?」

 驚いた私は声をあげ、その場で立ち上がった。

「琴葉さん、玲司と別れてください」

「えっ」

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。ちゃんと聞こえているのに反応すらできない。

「玲司の足の手術、とても難しいものになるの。それができる医師が北山グループの病院にいるの。私はどうしてもその医師に玲司の手術をしてもらいたい」

 お義母さんの目からは涙があふれている。

「本来なら、もと通り歩けるようにはならないだろうって。だから一縷の望みに駆けたいのよ」

 私だって同じ気持ちだ。玲司の足がもとのようになるならなんだってしたい。その気持ちに嘘偽りはないけれど。

「ど、どうして私が玲司と離婚しなくてはいけないんですか?」

 その理由は尾崎さんがこの部屋にいることで気がついていた。しかし私はそれでも聞かずにいられない。

「北山の出した条件が、あなたとの離婚なの」

 やっぱりそうだったんだ。

「ごめんなさい。あなたを犠牲にするようなことをして」

 お義母さんは絨毯の床に頭をすりつけるようにして謝っている。

 こんな姿見たくない。

 玲司を覚悟を持っておひとりで育てた人。私のこともあたたかく迎えてくれた。北山家の話を聞きに行ったときも、自分の人生に誇りをもっていた。

 そんなお義母さんが、私に土下座をしているなんて。苦しくて胸が張り裂けそうだ。

 きっと悩みに悩んだ結果、こうするしかなかったのだろう。

 私と同じくらい、いやそれ以上に玲司のことを思っている。苦しんでいないはずなどない。それでも覚悟を決めて私に頼んでいるのだ。

 こんなのってないよ……。

 玲司の一生を盾に取られてしまったら、私の選択肢はひとつしかない。

 北山家の意向に沿うことでしか、彼を救えないのだ。

 私はその場に倒れ込んで、目をつむる。
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