離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「今回のプレゼン、俺が〝負け戦や〟って言ったの覚えとるか?」
「うん、言ってたね」
たしかに冗談っぽく、言っていたのを覚えている。
「だけど、あの人――北山社長は違った。最初から勝つつもりで今日のプレゼンにいどんでた。相手の疑問に思うところ、食いついてきそうなところ、全部計算ずくやった」
君塚は悔しそうに唇を噛んでいる。
こんなふうに落ち込む彼を見るのは、入社以来はじめてのことでどう言葉をかければいいのかわからないでいた。
「たしかに北山の御曹司っていう肩書きがプラスに働いているのもある。だけどあの人うちの会社の強みも弱みもすでにもう完璧に把握してるんや。それでいて相手やライバルの分析もぬかりない。ほんまもんの、すごい人なんや」
いつも自信に満ちあふれている君塚。そんな彼をここまで悔しがらせるのが、北山玲司という男なのだ。
「俺、今めちやくちゃ悔しい」
「そっか。そうだよね」
彼の言う通りあまりにもできすぎる人の近くにいたら、自分への劣等感を強く感じる。種類は違っても、私も〝北山玲司〟という相手に、劣等感を持った仲間だ。
相手のすごさと、自分の至らなさに耐えられなくなる。
玲司にとっては早く結果を出したい一心だったに違いない。北山グループでこのライエッセがお荷物になると判断されたらすぐに切られる可能性だってあるのだ。
「あらためてやっぱりすごい人なんだね。でもね、君塚が頑張っていたのも私は知ってるから、そんなに自分を責めないでほしい」
私の言葉に君塚はゆっくりうなずいた。
「自信満々の君塚じゃないと、調子くるっちゃうから。それ飲んで帰ってくるときには元気出しておいてね」
気持ちを整理するには、もう少し時間が必要だろう。
私はそのまま休憩ブースを出てフロアに戻った。
そしてそのとき感じたことに愕然とする。私自身もまだ北山家に対する劣等感を持っていると気がついたのだ。
そのあと、外出を終えた私は帰りに会社近くのカフェでコーヒーを買って帰った。そしてそのまま、短い打ち合わせをするために社長室に向かう。
「失礼します」
「悪いこのメールだけ返信させて」
「はい」
キーボードのリズミカルな音が室内に響いている。
「待たせたな。すまない」
玲司はパソコンから顔を上げて、私に視線を向けた。
「本日のご契約、おめでとうございます」