離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 玲司が会社を引き継ぐとなったとき、北山グループの傘下に入るのに反対した役員がいたらしい。

 現在ライエッセは北山グループの次期代表が社長をしているものの、北山の傘下には入っていない。
 
 春香にとってはそれが不満だったらしい。

「別に北山の名前が欲しいんじゃないの。私たちの会社を認めてほしいだけ」

「わかる、わかるよ」

 北山のような大企業から見ると、ライエッセはまだまだ小さな会社だ。だけれど多くの技術力と可能性を秘めていると、私たち社員は信じている。

「最初お飾りの社長なのかな、なんて思っていたの謝らなきゃ。ちゃんとうちの会社のことを考えてくれているもんね」

「うん、私もそう思う。北山のほうの仕事もかなり大変みたいなんだけど、それでもうちの会社の仕事も手を抜いてないのがわかるもの」

 本当にすごい人なんだよ、昔からずっと。

 一緒に働いていると、どうしたって彼のすごさを実感する。

 過去に私が悲しい思いをした事実は消えないけれど、でもだからこそ今の彼がいると思うと誇らしかった。あの日、私は彼の未来を守れたのだと。

 しかしそれと同時に、どうしようもなく彼に惹かれる自分がいる。

 そのたびに最後に見たお義母さんの悲痛な顔が思い浮かぶ。すると自分のこの気持ちが罪悪感に変わる。

 私はあのとき、自分の気持ちと引き換えに彼を守った。だからこんな気持ちは決して抱いてはいけないのだと。

「琴葉、聞いてる?」

「あ、ごめん。新作のチョコのこと考えてた」

 ごまかすために適当なことを言う。

「もう、食いしん坊なんだから」

 春香に肘でつつかれつつ、笑ってみせる。

 今だって十分幸せなんだから、これ以上を求めるべきじゃない。そう自分に言い聞かせた。



 残暑の厳しい九月。暦の上では秋だというけれど、夜になっても蒸し暑さは健在だ。

 そんな中、私が玲司と一緒にタクシーに乗って向かっているのは都内にある料亭だ。相手はライエッセ創業当時からの顧客で、私もよく知っている取引先だ。

 ここもわが社と同様、社長が交代した。先代が息子に社長の座を譲ったのだ。それが半年ほど前の話で、新しい社長とは私ははじめて会う。

 本来は営業担当の君塚が参加する予定だったが、彼は京都に急な出張に出ることになって、代わりに「まだ挨拶ができていないから」という理由で、玲司が同席することになったのだ。
< 49 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop