離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「北山の御曹司かなんだか知らないが、この会社ではこっちが客なんだから。そのあたりしっかりと理解しているのか?」

 その言い方に私がむっとしてしまう。彼は一度だって自分の立場で人をないがしろにしたりしていない。それなのに決めつけで話をされるといい気分はしない。

「おっしゃる通りです。考えを改めてしっかりと精進いたしますので、ご指導よろしくお願いします」

 隣で玲司が深く頭を下げている。私もそれに倣って頭を下げたが心の中ではそんな必要ないのにとも思っていた。

 岸岡社長は自分の前でしっかりと頭を下げた玲司に溜飲を下げて気をよくしているようだった。

 そこからは今後の事業展開など、仕事の話を中心にゴルフの話などもでて、比較的和やかに会話が弾んでいた。時々気になるような態度はあったものの、玲司はうまく相手を落ち着かせてよい雰囲気だった。

「今日は気分がいいなぁ。ほら飲んで」

「はい、いただきます」

 これで七杯目だ。ガラス製のお猪口になみなみと日本酒が注がれる。

 飲みやすい冷酒とはいえ、日本酒はあまり得意ではない。いつもならやんわりと断るのだけれど、岸岡社長にはそれが通用しない。

 なんとか笑顔を浮かべて、口元に冷酒を運ぼうとした。しかし横からすっと手が伸びてきて、玲司がそれを飲んでしまう。

 私は驚いた。彼はアルコールがあまり強いほうではないはずだ。今日も私よりはるかに飲まされているのに大丈夫なのだろうか。

「鳴滝はあまり日本酒が得意ではないので、岸岡社長からの貴重な一杯は私がいただきました」

「あぁ、そうだったのか。それは気がつかなくて悪かったな。君、冷たいお茶でも持ってきてもらうか?」

「はい、そうします」

 私は助かったと内心思い、運ばれてきた冷茶でアルコールでほてった体を冷ました。しかし私の代わりに玲司がかなり飲まされている。

 どうにか早く切り上げたいと思っていたけれど、なかなかうまくいかない。

 そんなときに玲司のスマートフォンが鳴った。彼はひとこと岸岡社長に断りを入れてから部屋の外に出た。

 私は少しホッとした。外で少し休むことができるのではないかと思ったのだ。

 だからここは、私が頑張らなくてはいけない。
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