離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 岸岡社長が機嫌よくお猪口を傾けている。かなりの量飲んでいるので、顔も赤く呂律も怪しい。少し心配になるが今日は彼の秘書が不在なので、止める人がいないのだろう。

「鳴滝さんは、ゴルフはするの?」

 話しやすい話題を振られて安堵する。

「いいえ、実は私かなりの運動音痴なので」

 これは事実だ。一度中野社長に打ちっぱなしにつれていってもらったことがあるが、空振り続きの上に、ボールに当たったとしてもころころと転がるだけだった。

 呆れた中野社長が「ここまでセンスがないとは」と絶望していたのを思い出す。

「俺が優しく教えてあげるよ、今度一緒にどうだい?」

「いえ、本当に運動が苦手で……」

 ぶんぶんと顔の前で手を振って断っていると、いきなり立ち上がった岸岡社長が向かい側に座っていた私の隣にどしっと腰を下ろした。

 驚いて腰を浮かせて距離をとろうとする。しかしがしっと腕を掴まれてそれを阻まれた。

「なるほど細い腕だな。これなら飛距離を出すのは難しいだろうな」

「そうなんですよ。だからゴルフはちょっと」

 私は掴まれていないほうの手で、自分の腕を掴んでいる岸岡社長の手をやんわりと引きはがす。

 すると今度は私のふとももに手を置き、すかさず撫でまわしたのだ。ぞぞわりと全身に鳥肌が立つ。

「やめてください」

 反射的に拒否の言葉が口をついた。しかし相手はまったく気にしていないようだ。

「おお、案外初心(うぶ)なんだな。もうあの社長のお手付きだと思っていたが違うようだ」

「なっ……」

 完全なるセクハラ発言に加えて、玲司をバカにしている発言に頭に血が上る。しかしここで私が相手の機嫌を損ねると、先ほどまでどんなに失礼な態度をとられても、丸く収めていた玲司の努力が無駄になる。そう思うと拳をぐっと握って我慢した。

「弊社の北山は決して公私混同はしませんので」

「はぁ、ご立派だね。俺ならこんな綺麗な子を前にして、手を出さないなんてできないけどな」

 いやそれをしないのが、普通の社会だと思うのだろうが、私の常識が間違っているのだろうか。

「綺麗だなんて、とんでもないです」

 なんとか顔を引きつらせながら、腰を浮かせて距離をとる。

「なんだ、周りの男は本当に見る目がないんだな」

 今度は膝の上に置いてある拳に手を重ねられた。そして撫でまわされる。
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