離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る

「俺はこんなふうにかたくなに拒否されると、ますます燃えるんだ」

 なんてことだ。私の態度が岸岡社長の闘争心を変に煽ってしまったみたいだ。しかしならばどんな態度をとっていれば、正解だったのだろうか。

「すみません、もうこれ以上は」

 私は我慢できずに、岸岡社長の手を振り払った。

 しまった……。

 岸岡社長が激高するかと思って、あわてて様子をうかがう。しかし彼は笑みを浮かべていた。そうだった、拒否すればするほど喜ぶと本人が先ほど言っていたではないか。

「いいね、その目」

 距離をつめて、私に手を伸ばす。逃れるために立ち上がろうとしたが、うまくいかずにその場に倒れ込んでしまった。態勢を整える前に、岸岡社長がおおいかぶさろうとしてくる。

 どんどん迫ってこられ、悲鳴をあげようと息を吸い込んだときだった。ふっと私の視界から岸岡社長の姿がなくなった。そして同時に畳に引きずられている姿が目に入る。

 そこには岸岡社長の首根っこをつかんでいる、玲司の姿があった。

「なにするんだ!」

「しゃ、社長」

 私は驚きで動けないでいるうちに、岸岡社長が立ち上がろうとした。しかしそれを玲司が阻止する。

「なにをするだと? それはこっちのセリフだ。私の部下になにをした?」

 聞いたことのない、ドスの効いた低い声に私もびっくりする。

「離せ! ちょっとからかっただけだろう」

「そんなふうには見えなかったがな。セクハラ通り越して暴行罪で訴えてもいいんだぞ」

 今度は岸岡社長の襟首をつかんで壁に押しつけている。

「社長、私はもう大丈夫ですから」

 慌てて止めに入ると、やっとその手を緩めた。岸岡社長は壁伝いにずるずるとその場に座り込んだ。

「岸岡さん、先代にはとても世話になったと従業員から聞いています。ただ今後も弊社の社員をそのように雑に扱うなら、今後の取引は遠慮させていただきます」

「はっ! カッコつけやがって若造が」

 岸岡社長が体のほこりを払いながら立ち上がり、玲司を睨んだ。

「〝カッコつけ〟もできない、あなたのような経営者にはなりたくありませんから」

 はっきりと拒絶の意志を突きつけた。

 岸岡社長は不満げに玲司を睨みつけ「二度と顔を見せるな」と捨て台詞をはいて出て行った。

「それはこっちのセリフだ」

 そう呟いた彼が、私のほうを振り向いた。
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