離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 そうなってくると社長室でふたりで仕事をするよりも、彼がフロアにやってきて仕事をしてくれているほうが、人の目があるので気持ち的に楽だった。

 しかし仕事以外に気を遣う日々は、なんとなくいつもよりも疲れてしまってぐったりしてしまう。そんな私を見かねた君塚がリフレッシュに映画に誘ってくれた。


 いつもより少し遅く起きて、シャワーを浴びた。ひとりで暮らすようになってもともとあまり自炊が得意じゃないので、冷蔵庫の中はいつもさみしい。

 ただ今日は、昨日仕事帰りに寄ったコンビニで発見した、新作のスイーツが冷蔵庫に入っている。コーヒーを淹れて今からおいしくいただく予定だ。

 週末コーヒーを注ぎながらぼーっとするこの時間が一週間の中で一番ホッとする。コーヒーの香りに満たされながら、昨日買ったスイーツを堪能する。

「ん~無茶苦茶おいしい! リピ決定」

 誰もいない部屋に自分の声が響く。

 ふとこの部屋に引っ越してきたときのことを思い出した。物件を探す時間がなくて直感で決めた割には、すごく気に入っている。

 駅から徒歩十五分のワンルームのお城だ。

 なにもなかった部屋だったが、今は自分のお気に入りのもので満たされている大切な場所だ。ここでだけは自分が外でまとっている殻を脱げる気がしていた。

 濃厚な生クリームをスプーンですくい口に運んでいると、昔のことを思い出す。新作スイーツに目のない私に、玲司があちこちで見つけて買ってきてくれた。

 高級なスイーツの店のよりもコンビニの新作を喜ぶものだから、最初彼はすごく驚いていたっけ……。

 スイーツでお腹も心も満たされた私は、ふと立ち上がってチェストの前に立つ。普段はほとんど開けない引き出しに手を伸ばし開けてみた。

 そこにあるベルベットの赤い小箱をしばらく眺める。手を伸ばしそうになったのをやめて引き出しを閉めた。

「私、なにやってるんだろう」

 ここ最近自分で自分の気持ちや行動が理解できないことがある。理由はわかっているけれど考えたくない。無限ループに陥る前に逃げるのはこの四年間で本当にうまくなったと思う。

「え、もうこんな時間。そろそろ準備するかな」

 チェストに置いてある小さな鳩時計が、時間を知らせるとともに私を現実に引き戻してくれた。
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