離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 君塚が私を引き止める声が聞こえたけれど、聞こえないふりをしてその場から逃げるようにして自宅に向かった。

 駅について電車に乗る頃になって、ようやく気持ちが落ち着いてきた。そのときになって、君塚にどれだけ失礼なことをしたのかと申し訳ない気持ちになる。

 明日ちゃんと断らないと。はっきりと今の私の気持ちを伝えることが、君塚に対する誠意を見せることになる。

 突然の告白に混乱した私は、結局会社に向かうことなく気がつけば自宅に向かう電車に乗っていた。

 マンションの部屋について荷物を置くと、君塚から『ちゃんと家ついたか?』というメッセージがきた。

 ほかに聞きたいことも言いたいこともたくさんあっただろうに、彼はなにも言わずに私の心配をしてくれた。

「はぁ、君塚が最低なやつなら、その場で拒否できたのにな」

 いいやつなのだ。だからこそちゃんとしなきゃ。

 そう決心したけれど、その週末はなんとなく重い気持ちで過ごした。



 そして重い気持ちで迎えた月曜日。

 私はいつも通り誰よりも早く出社して、フロアの掃除をはじめた。おそらく君塚はギリギリの出社だから話ができるなら昼休憩の間だろう。

 彼のスケジュールは確認ずみだ。あとはあまり重くならないように、明るく断るだけ。

 昨日から何度か頭のなかでシミュレーションをしている。きっと彼ならちゃんとわかってくれるはずだ。

 そう思いながら週のはじめの月曜なので、いつもよりも丁寧に給湯室の掃除をしていると背後から声をかけられた。

「琴葉」

 声で誰だかわかって、一瞬にして緊張してしまった。しかし私はそれを隠して笑顔を浮かべで振り向く。

「君塚、おはよう。今日は早いね。めずらしい」

 いつもと変わらないように努めた。うまくいっただろうか。

「お前に話があったから、早く来たんや」

「そ、そうだったんだ。あの、昨日はごめんね。急に帰ったりして」

 まずは逃げ出してしまったことを謝る。

「俺、告白した相手に逃げられたんはじめてや」

 眉間にしわを寄せた彼は、不機嫌そうだ。

「なんか、パニックになっちゃって。悪かったと思ってる」

 告白をされ馴れている人生だったなら、相手を傷つけずにさらっと断れただろう。しかしあいにくそんな人生を歩いていないので許してほしい。

 でもちゃんと向き合いたいと思っている。
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