離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「あのね昨日のことだけど、私が離婚したってことは知っているよね?」

「あぁ、ここに入社する前のことやろ」

 よかった、さらっと話をしたことを覚えていてくれたみたいだ。

「私、そのときに決めたの。もう誰とも結婚も恋愛もしないって」

 連鎖的に当時のことを思い出して苦しくなる。それが顔に出てしまっていたらしい。

「そんなに、つらい結婚やったんか」

「うん……まぁ、ね」

「お前が離婚のあと、誰とも向き合うつもりがないって言ってたんは覚えてる。でももう四年だろ。そろそろ前を向いて歩いたらどうなんや?」

 ふたりが愛し合っているっていうだけでは、どうにもできない結婚だった。でも離婚を決めたのは自分だから、他人にそれを言うつもりはない。

「俺なら、お前のこと不幸にせん。お前にとって俺は今はただの同期かもしれんけど、俺のことを見ずにただ過去の失敗で俺を拒否するようなことだけはやめてほしい」

「君塚……たしかに、君塚と付き合う人は幸せになると思う」

「じゃあーー」

「でも私はダメなの。どうしてもダメなの」

 心の中に別の人がいるのに、君塚と一緒に過ごすなんてことできない。大切な同期だからこそだ。

 はっきりとした理由も告げずに、ただダメだという私に、彼は納得しなかった。

「付き合ってもみてないのに、拒否するなや」

 彼はそう言いながら、私の手に紙幣を握らせた。

「これは?」

「昨日の金や」

 ランチ代に私がおいていったお金だ。

「昨日は俺から誘ったんやから、この金は受け取れん」

「でも、自分で食べたものだから」

「普段は『奢れ!』言うやん」

「それは」

 言い返そうとしたけれど、君塚がそれを許さない。

「俺はデートで女の子に金を出してもらいたくないんや。だからこれは受け取れん」

 もう一度ギュッとお金を握らされた。

 そしてそのまま給湯室を出ていく。

「君塚!」

 名前を呼んで引き止めたけれど、彼は無視していってしまった。土曜日にカフェで私がしたことの仕返しだろうか。

「はぁ、どうしよ」

 握らされて少しクシャッとなった紙幣を手で伸ばしながら、ポロリと言葉が漏れた。

 離婚の話を持ち出したら、あきらめてくれると思ったけれどダメだったか。

 はぁ、と大きめのため息が出る。

 元夫が忘れられないと、正直に伝えるべきだった?

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