離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る

 でもそれで、なにかのきっかけで私の元夫が北山玲司だってばれたら?

 せっかく今、社長と社員の信頼関係ができつつあるのに、そんな過去のことでダメにしたくない。

 難しいけれど、でも時間をかけてわかってもらうしかないな。

 もう一度大きなため息をついて、私は自分のデスクに戻った。



 私の場合プライベートの悩みがあるときほど、仕事がはかどる。目の前のことに没頭することで現実逃避を図っているともいえる。

 午前中からいつもの倍くらいのスピードで仕事をこなして、そして玲司との打ち合わせの時間になり社長室に向かった。

 ノックをするとすぐに返事があり中に入る。プレジデントデスクに座り仕事をしていると思った彼は、めずらしく立ち上がって窓の外の景色を眺めていた。

「おはようございます」

「おはよう。土曜日は休みの日に悪かったね」

「いいえ、あのあとは大丈夫でしたか?」

 出社しようと思っていたけれど、君塚の告白騒動でパニックになってしまい結局家に帰ってしまった。無事に問題が解決したようでホッとした。

「あぁ、仕事は問題ない」

「仕事は……って?」

 ほかになにがあるんだろうと思い、首を傾げた。そのあと彼の言葉に衝撃を受ける。

「土曜日は、君塚くんとデートだったのか?」

「え、なんでそれを?」

 口にしてハッとする。これではデートをしたと認めてしまっているようだ。君塚からしたらデートかもしれないけれど、私はそのつもりで出かけていない。そう説明したいけれど、ほかの人から見ればただの言い訳に見えてしまうだろう。

 だからと言っていまさら撤回することもできない。

「聞かれたくないなら、今後は給湯室で大事な話をするのはやめるんだな」

 彼の指摘はもっともだ。

「以後、気をつけます」

 そう答えるしかなかったものの、しかし彼がなぜ不機嫌なのかその理由はわからなかった。そもそも給湯室で話をしたのは不用意だけれど、まだ仕事がはじまる前だから、とがめられる理由にはならない。

「俺とは仕事帰りの食事すら、しぶしぶなのに不公平じゃないのか?」

「不公平ですか?」

「あぁ、この間の接待から、俺のことを不必要に避けているし」

「そんなこと……ないです」

 口ではそう答えたものの、彼には私の行動はお見通しだろう。
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