その笑顔を守るために
「高山総合病院に運ぶ!アルコールの入ってるものは怪我人に触るな!そうでないものは、病院に戻れ!山川!その女性に付き添って!」

交差点での多重事故だった。トラックに衝突された乗用車が店に突っ込んだのだ。一瞬、両親の事故が瑠唯の脳裏に過ぎった。

「原田!…」

大野が何かをいいかけた時、運転席にいた男性が突然意識を失う。

「あなた!あなた!」

「大野先生!此方の男性失神しました!」

直ぐに運転席に駆け寄ってきた大野が

「この男性には、俺が付き添う!原田、そっちに付き添え!」

「わかりました。お母さんも、お嬢さんに付き添って下さい。」

「はい…はい…」

母親の声は震えていた。


到着した高山総合病院のERは正に戦場のようだった。事故現場から程近かった事と、その場にたまたまこの病院の外科医が居合わせた事で、殆どの患者が搬送されてきたからだ。軽症者も多数いるものの、店内で車の下敷きになった女性と、車内にいた父親と娘は重傷で、おそらく緊急のオペが必要になるだろう。この病院のオペ室は三つ。大野、山川、瑠唯の三人が執刀する事となった。室長の上原は研修医を総動員して、他の怪我人の治療に当たっている。
すると…お腹に窓枠が刺さったままの娘に悲痛な面持ちで付き添っていた母親が突然瑠唯の目の前で倒れた。

「大丈夫ですか?何処か痛いですか?」

瑠唯が声をかけるが

…まずい、呼吸していない…

「誰か!ストレッチャー用意して!送還します!」

「原田!どうした?」

全体を見渡しながら指示を出していた上原が駆け寄る。瑠唯が母親の胸に聴診器を当てていた。

「原田!何だ?」

「心タンポナーデ…かと…」

「何だって?どうする?オペ室は後一つしか空いていないぞ!」

大野と山川は既にオペの準備に入っており、この場にいない。

「人手も足りないぞ!」

「だからって今から他の病院に運んでいたら間に合いません!」

娘のサチュレーションも下がってきていた。

「じゃあ、どうするんだ!」

「二人一緒のオペ室に運びます!滝川先生と三ツ矢さん呼んで下さい!」

「そんな事してどうする?」

「めぐちゃんに麻酔をかけながら先にお母さんのオペをします!」

上原が絶句する。


オペ室に滝川と三ツ矢優子が呼ばれた。前立ちは歓迎会に欠席していた三ツ矢健人を指名した。瑠唯が三人に話をする。

「めぐちゃんに麻酔をかけて、状態管理しながら先にお母さんのオペをします。その後直ぐ、めぐちゃんのオペをするので、予め機材を揃えておいて下さい。」

「同じオペ室で立て続けに二つのオペをすると言う事ですか?そんな事可能なんですか?」

優子が困惑する。

「可能かどうかじゃなくて、やるんです!」

瑠唯が毅然と言い切る。

「何かあったらどう責任を取るんですか?」

健人が続けた。

「上原室長にゴリ押ししました!院長は急な外出で不在です!責任は私が持ちます!」

健人が拳を握りしめる。

「僕に、二人同時に状態管理させるつもり〜」

滝川が眉を寄せる。

「お願いします。できますよねぇ?滝川先生なら。お母さんのオペに六十分…その間、めぐちゃんの状態をキープして下さい!」

「はぁー。ご褒美くれる?」

「何でもします!」

「言質取ったよ!でも…原田先生なら四十五分でいけるんじゃん?」


開胸すると既に胸腔内には血が溢れていた。瑠唯は慎重に出血点を探す…あった!二箇所だ!素早く一箇所目を縫合する。

「心肺停止!」

オペ室にその声が響き渡った。直ぐ様もう一箇所の出血点を縫合すると、心臓を掴み直接マッサージを試みる。

「お母さん!逝かないでください!戻ってきて!めぐちゃんをおいて…逝かないで!お母さん!めぐちゃんを…ひとりぼっちにしないで!」

思わずそう叫ぶ瑠唯の脳裏には、病院の霊安室に横たわる両親の姿があった。
目の前で、健人が呆気に取られる。

「ピッ、ピッ、ピッ」

…規則的な機械音が響く。

「心拍再開!血圧も安定しました。」

瑠唯は大きく息を吐き出した。
しかし未だ気は抜けない。



術後ICUでは、瑠唯の提案でめぐのベットは両親の間に置かれた。
もし、めぐが目覚めた時両側に両親がいたら安心するだろうと…おそらく三人とももう間もなく目を覚ます。両親共に一命を取り留めめぐが一人きりにならなかったことに、瑠唯は心から安堵していた。

自分と同じ想いをしなくてよかった…

そう…心から思った。




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