その笑顔を守るために
「それでは、大野先生と原田先生の歓迎会を始めたいと思いまーす。かんぱーい!」
六月最後の日…大野と山川そして少し遅めではあるが…瑠唯を含めた三人の歓迎会が有志を集めて行われていた。当番医等で欠席を強いられた面々以外は、話題の大野の歓迎会ということもあり、かなりの出席率であった。孝太も少し離れた所で看護師の内海と楽しそうに話しをしている。どうやら内海は康太に気があるらしい。部長クラスの医師達は、若手優先と言うことで、顔を見せていない。
「えー、主役の一人であります山川先生は所要で遅れるので、先に始めていてくださいとの事です。飲み放題、食べ放題ですので、皆さん…じゃんじゃん呑んで、食べて、日頃のお疲れを癒して下さいねーこのお店、焼き鳥最高に上手いからね〜どんどん注文して下さーい!」
幹事が場を盛り上げる。
瑠唯は当然の如く大野の隣の席に置かれ、当然の如くその周りを若手の医師や研修医達に囲まれていた。
「それにしても、お二人のオペ…凄いですよねぇー。スピードも技術もですけど…全く会話しないであのコンビネーションでしょう?どうやって、意思疎通してるんですか?あっ…もしかして、テレパシーとか?」
そんな馬鹿げたツッコミに、大野が笑う。
「ハハハ…馬鹿野郎!そんなわけあるか!宇宙人じゃあるまいし。」
「じゃあ、どうやってるんです?」
「次にどう動くかっつう考えが同じなら、おのずと同じ動きになるんだよ。原田は次に俺がどう出るかを心得てて、何も言わんでも的確なサポートをする。ただそれだけだ!」
「ただそれだけって…一朝一夕に出来るもんじゃないでしょう?」
視線を向けられた瑠唯が
「泣くほどしごかれましたから…毎日、朝から晩まで怒鳴られ放しです!」
そう言って、苦笑いをした。
「ええー原田先生泣いたんですかー?俺も泣かせてみてー」
バカな事を言うな!バカな事を!
「はぁ?そんなだったか〜?結構優しく指導したつもりだったかなぁ〜」
全くどの口が言ってるんだか…
「あれ〜大野先生も原田先生も何飲んでるんすかぁ~?もしかして水っすか?」
『いや、いいんだよ。(いいんです。)』
二人の言葉が被る。
「なんか息ぴったりって感じっすけど…せっかくの歓迎会なんすから、今日くらい飲みましょうよ〜」
既に出来上がっているようだ。
「俺はいくら呑んでもザルだ。水飲んでんのと変わんねぇから、これでいいんだよ。」
「私はめちゃくちゃ酒癖が悪いんで…先生も私も何時もこれです!」
とソーダ水の入ったグラスを持ち上げる。
「ええー原田先生の酒癖、みてみたいかも〜俺…介抱しちゃいますよ〜」
「止めとけ!ひどい目にあうから!」
そんな盛り上がりの中…
「遅くなりましたー」
爽やかな声と共に山川が顔を覗かせた。
「あっ!山川先生!お先に始めさせてもらってます!お待ちしてました。どうぞ此方へ…」
そう促されて、山川は瑠唯の隣にスッと腰を下ろした。
げっっ!何だ!この状況!瑠唯は慌てて立ち上がろうとするが、大野と山川にガッツリ挟まれて動けない。山川は涼しい顔しておしぼりで手など拭いている。トイレでも口実にして、この場を抜け出そうかと思ったその時…
物凄い轟音を轟かせて店に乗用車が突っ込んで来た。瑠唯は一瞬固まって息を飲む。その音が、戦場を思い起こさせたのだ。
「おい!原田!何している!しっかりしろ!俺を見ろ!」
その声と共に大野に身体を揺すられて我に返る。次の瞬間、身体は動いていた。
店内は怒号と悲鳴に包まれた。
客の数名が車の下敷きになっており、車内には親子と見られる三人が取り残されている。
大野、山川、瑠唯の三人が車に駆け寄る。他の者も後に続いた。
「誰か救急車!」
「おい!車を持ち上げろ!」
大野の指示に、近くの女性が携帯で通報している。何人かの男達が手を貸し車を浮かせる。すると二人の男女がどうにか自力で這い出して来た。しかし女性一人が動かず横たわっている。店の従業員のようだ。大野と山川が注意深くその女性を引きずり出した。瑠唯は反対側の運転席のドアを開け、車内に声をかける。
「大丈夫ですか?医師の原田と言います。動けますか?」
すると、運転席にいた男性が意識を取り戻し
「あ…はい、私は大丈夫です。後ろに…妻と娘が…」
そうして動き出そうとする。それを瑠唯が押し留めた。頭から血を流していたのだ。
「動かないで!直ぐ救急車が来ます!」
それから後部座席のドアを開け中を覗き込む。そして愕然とする。
意識を失っている女性の腕の中に守られるようにいた女の子のお腹に窓枠の様なものが突き刺さっていたのだ。
「大丈夫ですか?」
瑠唯の呼びかけに女性が目を覚まし、腕の中の娘をみるなり悲鳴をあげた。
「めぐちゃん!めぐちゃん!」
お腹に刺さった窓枠に手をかける。
「駄目です!触らないで!」
その声に、始めて瑠唯の存在を認識した女性が叫ぶ。
「だって!取ってあげなきゃ!だいたい貴方誰です!」
「医師の原田と言います。今ここで、抜いてしまったら大出血を起こす可能性があります!このまま病院に運びます!」
「めぐちゃん…そんな…」
「めぐ!しっかりしろ!」
運転席の男性も叫んでいた。
遠くからサイレンの音が聞こえる。
六月最後の日…大野と山川そして少し遅めではあるが…瑠唯を含めた三人の歓迎会が有志を集めて行われていた。当番医等で欠席を強いられた面々以外は、話題の大野の歓迎会ということもあり、かなりの出席率であった。孝太も少し離れた所で看護師の内海と楽しそうに話しをしている。どうやら内海は康太に気があるらしい。部長クラスの医師達は、若手優先と言うことで、顔を見せていない。
「えー、主役の一人であります山川先生は所要で遅れるので、先に始めていてくださいとの事です。飲み放題、食べ放題ですので、皆さん…じゃんじゃん呑んで、食べて、日頃のお疲れを癒して下さいねーこのお店、焼き鳥最高に上手いからね〜どんどん注文して下さーい!」
幹事が場を盛り上げる。
瑠唯は当然の如く大野の隣の席に置かれ、当然の如くその周りを若手の医師や研修医達に囲まれていた。
「それにしても、お二人のオペ…凄いですよねぇー。スピードも技術もですけど…全く会話しないであのコンビネーションでしょう?どうやって、意思疎通してるんですか?あっ…もしかして、テレパシーとか?」
そんな馬鹿げたツッコミに、大野が笑う。
「ハハハ…馬鹿野郎!そんなわけあるか!宇宙人じゃあるまいし。」
「じゃあ、どうやってるんです?」
「次にどう動くかっつう考えが同じなら、おのずと同じ動きになるんだよ。原田は次に俺がどう出るかを心得てて、何も言わんでも的確なサポートをする。ただそれだけだ!」
「ただそれだけって…一朝一夕に出来るもんじゃないでしょう?」
視線を向けられた瑠唯が
「泣くほどしごかれましたから…毎日、朝から晩まで怒鳴られ放しです!」
そう言って、苦笑いをした。
「ええー原田先生泣いたんですかー?俺も泣かせてみてー」
バカな事を言うな!バカな事を!
「はぁ?そんなだったか〜?結構優しく指導したつもりだったかなぁ〜」
全くどの口が言ってるんだか…
「あれ〜大野先生も原田先生も何飲んでるんすかぁ~?もしかして水っすか?」
『いや、いいんだよ。(いいんです。)』
二人の言葉が被る。
「なんか息ぴったりって感じっすけど…せっかくの歓迎会なんすから、今日くらい飲みましょうよ〜」
既に出来上がっているようだ。
「俺はいくら呑んでもザルだ。水飲んでんのと変わんねぇから、これでいいんだよ。」
「私はめちゃくちゃ酒癖が悪いんで…先生も私も何時もこれです!」
とソーダ水の入ったグラスを持ち上げる。
「ええー原田先生の酒癖、みてみたいかも〜俺…介抱しちゃいますよ〜」
「止めとけ!ひどい目にあうから!」
そんな盛り上がりの中…
「遅くなりましたー」
爽やかな声と共に山川が顔を覗かせた。
「あっ!山川先生!お先に始めさせてもらってます!お待ちしてました。どうぞ此方へ…」
そう促されて、山川は瑠唯の隣にスッと腰を下ろした。
げっっ!何だ!この状況!瑠唯は慌てて立ち上がろうとするが、大野と山川にガッツリ挟まれて動けない。山川は涼しい顔しておしぼりで手など拭いている。トイレでも口実にして、この場を抜け出そうかと思ったその時…
物凄い轟音を轟かせて店に乗用車が突っ込んで来た。瑠唯は一瞬固まって息を飲む。その音が、戦場を思い起こさせたのだ。
「おい!原田!何している!しっかりしろ!俺を見ろ!」
その声と共に大野に身体を揺すられて我に返る。次の瞬間、身体は動いていた。
店内は怒号と悲鳴に包まれた。
客の数名が車の下敷きになっており、車内には親子と見られる三人が取り残されている。
大野、山川、瑠唯の三人が車に駆け寄る。他の者も後に続いた。
「誰か救急車!」
「おい!車を持ち上げろ!」
大野の指示に、近くの女性が携帯で通報している。何人かの男達が手を貸し車を浮かせる。すると二人の男女がどうにか自力で這い出して来た。しかし女性一人が動かず横たわっている。店の従業員のようだ。大野と山川が注意深くその女性を引きずり出した。瑠唯は反対側の運転席のドアを開け、車内に声をかける。
「大丈夫ですか?医師の原田と言います。動けますか?」
すると、運転席にいた男性が意識を取り戻し
「あ…はい、私は大丈夫です。後ろに…妻と娘が…」
そうして動き出そうとする。それを瑠唯が押し留めた。頭から血を流していたのだ。
「動かないで!直ぐ救急車が来ます!」
それから後部座席のドアを開け中を覗き込む。そして愕然とする。
意識を失っている女性の腕の中に守られるようにいた女の子のお腹に窓枠の様なものが突き刺さっていたのだ。
「大丈夫ですか?」
瑠唯の呼びかけに女性が目を覚まし、腕の中の娘をみるなり悲鳴をあげた。
「めぐちゃん!めぐちゃん!」
お腹に刺さった窓枠に手をかける。
「駄目です!触らないで!」
その声に、始めて瑠唯の存在を認識した女性が叫ぶ。
「だって!取ってあげなきゃ!だいたい貴方誰です!」
「医師の原田と言います。今ここで、抜いてしまったら大出血を起こす可能性があります!このまま病院に運びます!」
「めぐちゃん…そんな…」
「めぐ!しっかりしろ!」
運転席の男性も叫んでいた。
遠くからサイレンの音が聞こえる。