その笑顔を守るために
翌朝、瑠唯が医局に顔を出すと…どんなに苦手でも、一日一度は顔を出さざるおえないのである…なにやら人だかりが出来ていて、騒がしい。
「おはようございます。」と一声かけてさっさと抜け出そうとしたところを篠田に呼び止められた。
「あっ、原田先生、おはようございます。先生、始めてですよねぇ?松本先生…」
…松本?聞いたことがあるような名前だ…と思った時、人だかりの中から一人の女性が現れた。
「東條大学病院、小児科の松本です。はじめまして、原田、せ、ん、せ、い。」
なんか棘がある言い方だ。
「はじめまして、外科の原田です。」と言って、その女性に顔を向けた時…
…あっ…あの時の女性だ…
四年前…山川とホテルで一緒のところを見かけた、あの時の…と言う事は松本教授のお嬢さん…当時山川の恋人と言われていた、松本茜だ…
「私達が顔を合わせるのは初めてでも、父の事はご存知よね。貴方が研修医の頃の担当教授ですものね。」
「はい…松本教授には大変お世話になりました。その後ご無沙汰しており、申し訳ありません。宜しくお伝え下さい。」
「貴方も最近随分とご活躍だそうね。今も昨日のオペのお話し、伺っておりましたの。随分と成長なさったのね。あの頃と違って…」
そう言って含み笑いをする。
瑠唯は唇を噛み締めた。
隠している訳ではない…事実、髙山や部長クラスの先生方は皆、ご存知のはずだ…あの時の事を…
ただ、敢えて誰彼構わず言わないだけだ。
「いえ…まだまだ勉強中の身です。」
「あらっ、ご謙遜を…わたくし、今日から此方で暫くの間研修させて頂く事になりましたの。是非、色々と教えて頂きたいわ!」
周りにいた医師達がなんとなくその意味深な会話を訝しく思い出した時…
「おはようございます。原田先生いる?」と軽快に山川が入って来た。
すると…
「あっ!おはようございます!山川先生…父から聞いてらっしゃるかしら?わたくし、今日から此方で研修を…」
その言葉を遮るように
「ああ…聞いてますよ。ですが…ここは外科です。小児科にご案内させますよ。ああ…三ツ矢くん!松本先生、小児科にご案内して…」と鰾膠も無い。
「えっええ…とりあえず、ご挨拶に伺っただけですから…今日は、これで失礼しますわ。山川先生、近いうちにお食事でも…と父が申しておりました。」
「実家の病院の方が少し立て込んでおりまして、申し訳ありません…と教授にお伝え下さい。」
あからさまに面白くないといった面持ちの茜は、三ツ矢を従えて出ていった。
暫く廊下を歩いた所で、茜が三ツ矢を振り返る。
「三ツ矢くんって、今年からの研修医?」
「はい…そうです。」
媚びる様な茜の態度に不快感を露わにする。そんな三ツ矢をさらにもの言いたげに見据えると
「もしかして、あの時亡くなった患者さんのご家族かしら?」
「あの時…と言うのが、何時の事かわからないのですが…」
「三年前、東條大学病院で原田先生が誤診で患者さんを死なせた時よ。」
あまりの言いように、嫌悪感すらおぼえる。
「あれは!誤診なんかではなかったと思っています!」
「あら、そう?貴方確か、原田先生に「人殺し」って怒鳴ってらした息子さんよねぇ?」
三ツ矢がビクっと肩を震わせた。
「僕も医師になって、あの病気の事は色々と勉強しています。原田先生の診断は、あの時点では間違っていなかった。父はその後「劇症型」を発症して死んだんです。」
「貴方…遺族のくせに、誤診した医師をかばうの?優しいのねぇーそれとも、あのお人形さんみたいな顔で懐柔された?」
「そんなんじゃありません!原田先生は誤診なんかしていない!小児科はその突き当たりを左に行った所でする。僕はここで失礼します。」
一礼して、三ツ矢はその場を後にした。
「おはようございます。」と一声かけてさっさと抜け出そうとしたところを篠田に呼び止められた。
「あっ、原田先生、おはようございます。先生、始めてですよねぇ?松本先生…」
…松本?聞いたことがあるような名前だ…と思った時、人だかりの中から一人の女性が現れた。
「東條大学病院、小児科の松本です。はじめまして、原田、せ、ん、せ、い。」
なんか棘がある言い方だ。
「はじめまして、外科の原田です。」と言って、その女性に顔を向けた時…
…あっ…あの時の女性だ…
四年前…山川とホテルで一緒のところを見かけた、あの時の…と言う事は松本教授のお嬢さん…当時山川の恋人と言われていた、松本茜だ…
「私達が顔を合わせるのは初めてでも、父の事はご存知よね。貴方が研修医の頃の担当教授ですものね。」
「はい…松本教授には大変お世話になりました。その後ご無沙汰しており、申し訳ありません。宜しくお伝え下さい。」
「貴方も最近随分とご活躍だそうね。今も昨日のオペのお話し、伺っておりましたの。随分と成長なさったのね。あの頃と違って…」
そう言って含み笑いをする。
瑠唯は唇を噛み締めた。
隠している訳ではない…事実、髙山や部長クラスの先生方は皆、ご存知のはずだ…あの時の事を…
ただ、敢えて誰彼構わず言わないだけだ。
「いえ…まだまだ勉強中の身です。」
「あらっ、ご謙遜を…わたくし、今日から此方で暫くの間研修させて頂く事になりましたの。是非、色々と教えて頂きたいわ!」
周りにいた医師達がなんとなくその意味深な会話を訝しく思い出した時…
「おはようございます。原田先生いる?」と軽快に山川が入って来た。
すると…
「あっ!おはようございます!山川先生…父から聞いてらっしゃるかしら?わたくし、今日から此方で研修を…」
その言葉を遮るように
「ああ…聞いてますよ。ですが…ここは外科です。小児科にご案内させますよ。ああ…三ツ矢くん!松本先生、小児科にご案内して…」と鰾膠も無い。
「えっええ…とりあえず、ご挨拶に伺っただけですから…今日は、これで失礼しますわ。山川先生、近いうちにお食事でも…と父が申しておりました。」
「実家の病院の方が少し立て込んでおりまして、申し訳ありません…と教授にお伝え下さい。」
あからさまに面白くないといった面持ちの茜は、三ツ矢を従えて出ていった。
暫く廊下を歩いた所で、茜が三ツ矢を振り返る。
「三ツ矢くんって、今年からの研修医?」
「はい…そうです。」
媚びる様な茜の態度に不快感を露わにする。そんな三ツ矢をさらにもの言いたげに見据えると
「もしかして、あの時亡くなった患者さんのご家族かしら?」
「あの時…と言うのが、何時の事かわからないのですが…」
「三年前、東條大学病院で原田先生が誤診で患者さんを死なせた時よ。」
あまりの言いように、嫌悪感すらおぼえる。
「あれは!誤診なんかではなかったと思っています!」
「あら、そう?貴方確か、原田先生に「人殺し」って怒鳴ってらした息子さんよねぇ?」
三ツ矢がビクっと肩を震わせた。
「僕も医師になって、あの病気の事は色々と勉強しています。原田先生の診断は、あの時点では間違っていなかった。父はその後「劇症型」を発症して死んだんです。」
「貴方…遺族のくせに、誤診した医師をかばうの?優しいのねぇーそれとも、あのお人形さんみたいな顔で懐柔された?」
「そんなんじゃありません!原田先生は誤診なんかしていない!小児科はその突き当たりを左に行った所でする。僕はここで失礼します。」
一礼して、三ツ矢はその場を後にした。