その笑顔を守るために
その日の夕方、食堂の何時もの席で瑠唯が明日のオペの最終確認をしていると

「明日、新生児のオペだって?」

そう言って山川がやって来た。

「あっ、はい…帝王切開で取り出してその後直ぐにオペします。」

「難しいオペだって聞いてる。」

「今のところ…五分五分…と言うところかと…」

「五分五分かぁ…きついね。」

「はい…でも…オペしなかったら、確実にこの赤ちゃんは助かりません…」

「うん…君になら出来ると信じてるよ。加藤部長に頼まれた患者さんも最近いい方向に向かってるんだって?」

「えっ?あっ、真理ちゃん?…はい…最近顔色もよくて、よく笑うようになって、お友達も出来て、少しだけですけど…前より楽しそうです。」

「加藤部長も感心されてたよ。どんな魔法をかけたんだろうって…数値も良くなってるって驚いてた。」

「私は…特に何も…良くなってるって言ってもほんの少しの事で…根本治療は何も出来ていないので…」

「それでも、患者さんのためにはなってるはずだ!」

「そうなん…でしょうか?あっ…そういえば、これ…」

そう言ってポケットから飴をだすと

「昔、先生から頂いた飴…私もよく持ち歩いて…害のない程度で患者さんにさしあげたりしてるんですけど…真理ちゃんが、この飴だけは甘くて美味しいって食べてくれるんです。薬の副作用で味覚障害が激しいみたいで、あまり食欲がないらしんですけど、この飴だけは美味しいって…今の真理ちゃんにとってはたったひとつの飴でも栄養になって欲しいと思って」

そう言って山川の掌に乗せた。

「ああ…懐かしいなぁこの飴…昔よくなめてた。疲れた時なんかに…でもこれ、なかなか売ってなくて見つけるの大変だっただろう?」そう言ってその飴を受け取ると、ポンっと自分の口に放り込む。

「ええ…あちこち探して…やっとネットで見つけました。買い置きしてありますよ!今度持ってきます。」

「じゃあ、そのお礼に今度食事にでも行こう。この間のおこわのお礼も未だだしね。」

瑠唯が真っ赤になって、焦っていると山川はクスッと笑って

「じゃあ明日のオペ頑張って。
あっ!そういえば知ってる?産婦人科の佐々木先生…大野先生の彼女だって…」

「ええーっ?」

爆弾発言を落として、ヒラヒラと手を振りながら去って行った。


翌日、執刀を瑠唯、前立ちに大野、麻酔に滝川、機械出し三ツ矢の他外回り、臨床工学技士に優秀なスタッフを揃えて行われたオペは実に五時間を要し、結果的に成功した。

「お疲れ様でした。原田先生…ありがとうございました。今回の患者さん…お母さんは地元の方で、私の学校の後輩なの。学生の頃から知ってて…だから本当にありがとう。」

瑠唯は佐々木にガッシと手を握られた。傍らで満足そうに大野が笑っている。

この二人が、恋人同士…?
未だ信じきれない現実に、ただただ唖然と口を開ける瑠唯だった。




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