その笑顔を守るために
「お疲れ様でしたー。原田先生、年内今日が最後ですよねぇ?」

三ツ矢にそう尋ねられ…

「うん、そう。明日から3日迄お休み貰ってて…ごめんね、三ヶ日のシフト丸投げで…」

「いいんじゃないですか?先生…このところ特に働き過ぎだから、この際ゆっくり休んで下さい。三ヶ日は僕ら研修医が頑張りますから。」

「そう言って貰えると有り難い…お言葉に甘えてゆっくりさせて貰おうかな。あっ…ただちょっと心配な患者さんがいて…生後半月の赤ちゃんなんだけど…オペが必要で、入院してもう少し大きくなって体力がついてくるのをまってるの。」

「ああ…長谷川先生が言ってた患者さんだ。でも駄目ですよ!またそんな事言ってー。お正月は山川先生とお二人でゆっくりされるんでしょ?クリスマスデートすっぽかしたんだから、今度はしっかりイチャイチャしなきゃー」

「な、なんで三ツ矢くんがそんな事知ってんのよー」

「滝川先生が、予約したレストランのおこぼれにあずかったって喜んでましたよー」

「また、滝川先生〜?」

「じゃ、そうゆう事で…僕、大晦日夜勤なんで、これから同期で年越し蕎麦食べに行ってきます。先生も良いお年をお迎え下さいねー。山川先生と…」

三ツ矢はそう言い残して去って行った。



「やあ、お待たせ!乗って!」

瑠唯が3泊4日分の荷物を持って建物から一番離れた駐車場の隅にこっそりと立っていると、目の前に滑るように山川の車が入ってきた。「失礼します。」と車に乗り込むと…

「荷物、後に置けば?」

「はい…ありがとうございます。あの…先生、この間は本当にすみませんでした。せっかくレストラン予約してくださったのに…」

「それはもういいって…医師あるあるだろ?僕はあっちこっち行ってて、どうしても僕じゃなきゃって患者さんいないからあんまり呼び出しとかないけど…あんなの医師なら当然のことだろう?で…どうだったの?その患者さん。」

「はい…ちょっとオペの時期が早かったんですが…何とか…」

「そう…ならよかった…それにしてもさぁー何もこんな奥で隠れるように待ってなくったっていいのに。」

「だって…誰かに見られたら…滝川先生にでも見つかったら、それこそ何言われるか…」

「そんなの今さらだろ。それより…この休みの間、先生って言った回数だけお仕置きだからね!」

瑠唯は言葉に詰まって、運転席の山川を凝視する。


取り敢えず買い出しに行こうと、地元のスーパーに立ち寄る。年末とあって駐車場は満杯だ。どうにか空いているスペースを見つけて車を入れ、降りようとしたところで、聞き覚えのある声がした。

「あら〜瑠唯先生!」

びっくりして、隣のスペースに停まっていた軽自動車を恐る恐る見ると…清掃のおばちゃんが運転席から降りてきた。

「あら、山川先生も…お二人お揃いで…もしかして、一緒に住んでいらっしゃるんですか?」

「い、いえいえ!そんなんじゃありません!たまたま…」

瑠唯は焦るが、山川はいたって冷静だ。

「僕は今日からでも一緒に暮らしたいんですけどねぇ…彼女がなかなか手強くて!取り敢えず年末、年始はって口説き落としたんですよ。」

「まあ〜それはそれは…いいですねぇ〜…あっ、そうだ!丁度良かったわ!」

そう言っておばちゃんは後部座席を開けると頭を突っ込み何やら取り出す。

「これ…家でついたお餅と家で打ったお蕎麦、良かったらお二人でどうぞ!」

またしても大量に差し出した。

瑠唯はギョっと目を向くと山川が隣から

「何時もすみません。やぁうまそうだなぁー早速今夜、年越し蕎麦でいただきます。」と言って、アッサリ受け取る。

「じゃあね、良いお年を…」と言っておばちゃんが去って行った後

「先…あっ…修司…さん…こんなに沢山お餅とお蕎麦…どうするんですか?」

「そうだなぁー実家にでも持ってくか?」

「えっ?今からですか?もしかして私も一緒に?」

「ん〜その線も捨てがたいが…今日のところは瑠唯を一人占めしたいから、それはまた次の機会にだな!蕎麦と餅は手に入ったから、他の物を買ってこよう!」

「あの…スーパーの中に、誰か他に知ってる人とかいませんよねぇ?」

「さぁ〜どうかなぁ…狭い町だからね。何時もどっかしらで知り合いに会うよ。クリスマスの時のレストランでも隣の席に院長が奥さんと食事してたって、滝川言ってたし…」

「えっ?じゃあもし私と先生が行ってたら、隣には院長夫妻がいらしたって事ですか?」

「そうなるね。」と山川はアッサリ言う。

…それは…もしかしたら行けなくなって、よかったんではないだろうか?…

「大型スーパーだってここ一件だから、誰かしらんいてもおかしくないだろうね。」

「わ、私…車で待ってますから、先生…一人で行ってきてもらっていいですか?」

「何馬鹿な事言ってんのーそんなのやだよ!せっかく二人で買い物、新婚みたいで楽しいのにさぁ…あっ、後…先生、二回ね!」

そう言うと、とっても楽しそうに瑠唯の手を引いて中に入って行く。瑠唯は引きずられるようについて行った。






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