フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 急いで搬入しなければと、気を取り直して箱を式場に運ぶ。

 とにかく、今は時間がない。

 全ての箱を開封し、使えそうなお花を取り出す。
 昨日のうちに作り上げていたブーケ・ブートニアの箱は無事だ。
 けれど、会場の飾りつけ用のフラワーリースはそのほとんどがどこかしら欠損し、花びらが取れていた。

 新郎さんも新婦さんも、あんなに嬉しそうにお花の話をしてくれたのに!

「私、近くのお花屋さん調べますね!」

 後輩がスマホ片手に花屋さんをピックアップしてくれる。
 私はとにかく潰れてしまったお花を取り除き、そこに別の花を差し替えて何とかリースの形を整えた。

 けれど、どうしても数が足りない。
 今さらプランの変更なんてできないし、花の代用品を提案するのも申し訳ない。

 打ち合わせの時の、幸せそうなカップルの姿を思い浮かべた。

 何より、二人がたくさん準備をしてきたのを、私は知っている。
 二人にとっては、人生に一度きりの晴れ舞台なんだから……っ!

 頭を悩ませながら手を動かし、リースを編んでいたところ――

「それ、間に合うのか?」

 突如、社長がそう言って私の手元を覗いてきた。

「花を運搬していた箱がつぶれてしまったと、運送業者から謝罪があった。だが、それだけでは元の量には――」

「先輩、近所の花屋さん、どこも休日で対応できないそうです!」

 社長の声を遮り、後輩が駆け寄ってくる。
 彼女は今にも泣きそうだ。

 私も泣きそうだ。
 けれど、泣いている場合じゃない。

「大丈夫、なんとかなる。泣いちゃだめだよ。私たちの仕事は、幸せな結婚式を作り上げるお手伝いなんだから!」

 言い切ったところで、手元を見る。
 けれど、それはやっぱり泣きたくなるくらい、無残な状態で。

 鼻の奥がつんとした。
 泣くまいと踏ん張る。

 すると、肩にポン、と大きな手が置かれた。
 振り返る。
 社長だった。

「今すぐ屋上へ。台車を持って待ってろ」

「え……?」

「いいから、行け!」
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