義兄と結婚生活を始めます
「また三人でランチに行きましょう」

「報告書もありますし、先に」

「ダメよ!休憩はちゃんと取らなきゃ!」

「俺はいいよ~ちょっと前に取ったから、二人休憩入りなよ」


ため息をつく和真は、立ち上がってオフィスのドアへ向かう。
突然動き出す和真を見て、いまだ鞄を持っていた由梨子も後から付いていこうとしたが、涼介に止められた。


「由梨子ちゃん、和真たぶんちょっと用事があると思うよ。少し待った方がいい…って…えぇ…」


涼介の言葉も聞かずに、先に出て行った和真を追いかけていく。


オフィスを出た和真は、スマホを耳にくっつけてこーる音を聞いていた。
ようやく出た相手の声は慌てていた。


「す、すみません!片づけをしていて…!どうかされましたか!?」

「あおいさん…今日、夕食はいりません」

「え?あ…はい…えっと、遅くなるってことですか?」

「はい。実は」

「和真!早く行きましょう!遅くなるわ」


電話中の和真の後ろから、嬉しそうに声をかける由梨子。
背中をドンっと押され、通話を切るボタンに触れてしまっていた。

「いきなり後ろから大声出さないでください」

「だって、置いて行かれると思ったから、焦っちゃって…」

「電話中なので、少し待っていてください」


シュンとする由梨子になのか、言い訳になのか、ため息をついて再びスマホを耳に当てるが、何も聞こえない。
数秒待ってから画面を見ると、いつもの待ち受け画面が写る。

少し考えたが、あおいへ要件は伝え終えたので良いと思い、そのままスマホをポケットにしまった。









…—
通話が突然切れた方のあおいは、しばらくツーツーツーという完全に通話が終わった音を聞いていた。
固まったままのあおいは、最後に聞こえた女性の声が耳に残って離れないでいる。


(女の人の声……聞いたことある…)


モヤモヤ…


(水族館のときの…ゆりこ、さん…)


モヤモヤ…モヤモヤ…


スマホを持つ反対の手には、本棚に入れかけていた資料集を持っていたが、まったく動かなくなってしまった。
その代わりに、胸の奥で妙な焦りのような不安に似た感情が、あおいの中で静かに広がっていく。


(あれ…?今、ゆりこさんは和真さんと一緒いるってこと、だよね……夜も…?)


小さな疑問が生まれてしまうと、静かだった感情が一気に大きく膨らんだ。
思わず口を突いて出てしまいそうな言葉を飲み込むように、あおいは本棚へ残りの資料集や教科書を入れ始めた。
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