義兄と結婚生活を始めます
既読は一切ついておらず、期待していたあおいは肩を落とした。
そして、無気力になったような体を動かし、残りの荷物を詰めると和真の上着を持って部屋から出る。
自分の部屋の扉を閉めた瞬間に、ドアノブから手が離せなかった。
(…もしかして…)
「私、この家に帰れなくなる…?」
気づいてしまった未来に、大きな不安の波が押し寄せてきた。
生まれ育った家であり、家族との思い出がたくさんある…。
暗がりの各部屋に視線を向けるが、小さく呟いたあおいの言葉に返事はない。
この家で、思い描いていたこれからの自分はもういない…そう考えると、言葉にはできない感情に埋もれてしまう感覚になった。
(…行くしかない…)
姉の、小鳥遊家の妻代役の覚悟とは別に、違う覚悟があおいの中で固まろうとする。
しかし、自分に言い聞かせる思いは、小さな抵抗であることに…あおいは気づかなかった。
玄関で靴を履いて、重く感じるドアを開けて、再び夜の外へ出る。
鍵をかけていると、後ろからバンッという音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには車から降りている和真の姿が…。
ぎょっとすると、小走りで駆け寄るあおい。
「小鳥遊さん、どうしました!?」
「5分18秒経ったので、声をかけようかと…」
「………ご、ごめんなさい…」
答えに困るあおいだが、とりあえず謝罪をする。
すると、和真はあおいへ手を差し出した。
「お荷物もらいます」
「え、自分で持ってますよ!」
「…そうですか」
和真は手を引っ込めると、助手席側へ向かう。
式場から出るときと変わらず、車のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「はい……あ!上着、ありがとうございました」
「いいえ」
持っていた上着を和真へ渡す。
受け取った後に、再び袖を通す姿を見ると、あおいは荷物を抱えたまま車に乗り込んだ。
和真も運転席に乗り込むのを確認すると、お互いにシートベルトを締める。
「ここからなら30分ほどで新居につきます」
「わかりました…」
あおいは、発進する車からゆっくりと遠ざかる自宅に、心の中で別れを告げた。
車は大通りに出て、しばらく走る。
車内は完全な沈黙に包まれたため、あおいはこの気まずい雰囲気から逃げたくなった。
運転する和真をチラリと見る。
慣れた様子のハンドル操作と合わせて、整った容姿を様々なライトが和真を照らした。
ヴーヴー!ヴーヴー!
「ひゃっ!」
荷物とは別のバッグに入れていたスマホが、静まり返っていた車内に響いた。
取り出して画面を見ると、母親からだと気づく。
「あの…」
「どうぞ」
あおいが通話の許可をもらおうとしたことを見越していたのか、和真はすぐに答えていた。
母親からの電話に出るあおい。
「あおい?今、小鳥遊さんとのお話が終わったの。その…聞いた…?」
「うん、聞いた…小鳥遊さんが家に寄ってくれたから、荷物は少しあるよ」
「こんなことになってごめんね…お父さんも色々と混乱しちゃって…今は話せそうにないの…。また後でかけるわね…」
母親の声音から、父親の疲弊した姿があおいの頭に浮かぶ。
そして、無気力になったような体を動かし、残りの荷物を詰めると和真の上着を持って部屋から出る。
自分の部屋の扉を閉めた瞬間に、ドアノブから手が離せなかった。
(…もしかして…)
「私、この家に帰れなくなる…?」
気づいてしまった未来に、大きな不安の波が押し寄せてきた。
生まれ育った家であり、家族との思い出がたくさんある…。
暗がりの各部屋に視線を向けるが、小さく呟いたあおいの言葉に返事はない。
この家で、思い描いていたこれからの自分はもういない…そう考えると、言葉にはできない感情に埋もれてしまう感覚になった。
(…行くしかない…)
姉の、小鳥遊家の妻代役の覚悟とは別に、違う覚悟があおいの中で固まろうとする。
しかし、自分に言い聞かせる思いは、小さな抵抗であることに…あおいは気づかなかった。
玄関で靴を履いて、重く感じるドアを開けて、再び夜の外へ出る。
鍵をかけていると、後ろからバンッという音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには車から降りている和真の姿が…。
ぎょっとすると、小走りで駆け寄るあおい。
「小鳥遊さん、どうしました!?」
「5分18秒経ったので、声をかけようかと…」
「………ご、ごめんなさい…」
答えに困るあおいだが、とりあえず謝罪をする。
すると、和真はあおいへ手を差し出した。
「お荷物もらいます」
「え、自分で持ってますよ!」
「…そうですか」
和真は手を引っ込めると、助手席側へ向かう。
式場から出るときと変わらず、車のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「はい……あ!上着、ありがとうございました」
「いいえ」
持っていた上着を和真へ渡す。
受け取った後に、再び袖を通す姿を見ると、あおいは荷物を抱えたまま車に乗り込んだ。
和真も運転席に乗り込むのを確認すると、お互いにシートベルトを締める。
「ここからなら30分ほどで新居につきます」
「わかりました…」
あおいは、発進する車からゆっくりと遠ざかる自宅に、心の中で別れを告げた。
車は大通りに出て、しばらく走る。
車内は完全な沈黙に包まれたため、あおいはこの気まずい雰囲気から逃げたくなった。
運転する和真をチラリと見る。
慣れた様子のハンドル操作と合わせて、整った容姿を様々なライトが和真を照らした。
ヴーヴー!ヴーヴー!
「ひゃっ!」
荷物とは別のバッグに入れていたスマホが、静まり返っていた車内に響いた。
取り出して画面を見ると、母親からだと気づく。
「あの…」
「どうぞ」
あおいが通話の許可をもらおうとしたことを見越していたのか、和真はすぐに答えていた。
母親からの電話に出るあおい。
「あおい?今、小鳥遊さんとのお話が終わったの。その…聞いた…?」
「うん、聞いた…小鳥遊さんが家に寄ってくれたから、荷物は少しあるよ」
「こんなことになってごめんね…お父さんも色々と混乱しちゃって…今は話せそうにないの…。また後でかけるわね…」
母親の声音から、父親の疲弊した姿があおいの頭に浮かぶ。