義兄と結婚生活を始めます

肩を震わせる様子を見て、あおいは笑われていることに気づくと、恥ずかしくなって顔が熱くなる。
祐希に対して、小声で少しだけ怒った。


「ゆ、祐希くん!笑うのはひどいよ…!」

「くっ…ふは…っ、だってさ…はは…!」


ようやく顔だけあおいへ向けると、笑いすぎたためか、祐希の眼には涙が浮かんでいた。
息を整え、目に浮かんだ涙を指先で拭う祐希は、まだブツブツと拗ねるあおいを見る。


「あおいさー…なんで嘘ついてんの?」

「……え…?」

「親父に聞いたんだよ。結婚相手、本当はすみれ姉ちゃんなんだろ?」


祐希からの質問に、思わず固まってしまい、答えに詰まった。
先ほどまでの穏やかな時間が、いきなり空気が変わってしまったのを感じ取ると、あおいは冷や汗を流す。


「えっと……わた、私……」

「俺、あおいに嘘つかれるの、やだよ」


机に伏したまま、顔だけをあおいに向ける祐希。
その眼差しから真剣な言葉だと思えたあおいは、少し考えてから、周りを確認して口を開いた。


「…あのね、実は……ー」


こうして祐希に明望学園の入学やすみれのこと、今の生活のことなどを打ち明けた。
すべてを聞いた祐希は、しばらく黙り込んだ。

あおいはチラチラと落ち着かない視線を祐希に向け、反応を待つ。


「…あおい、無理してないのか?」

「最初は戸惑ったけど…今は……大丈夫」

「すみれ姉ちゃんから連絡は?」


黙ったまま首を左右に振って答えた。


「そっか…」

「嘘ついてて、ごめんね…」

「それは別にいいって。なんかあったら相談してほしいって言ったし…」


祐希の言葉を最後に、二人の間に沈黙が流れる。
改めて結婚式の日から、今までの出来事を思い返すあおい。


「あのさ…」

「ん!?」


ハッとして返事をすれば、じっと見つめてくる祐希に小首を傾げた。
わずかに口を動かしかけているため、何かを言いたいのだろうとは感じ取れる。


「祐希くん…?」

「…結婚のフリならさ…」


あおいを見つめたまま、手を伸ばして髪の毛に触れた。


「…あの約束…」

「…約、束……」


祐希の言葉で、忘れていた記憶が呼び起こされる。
ランドセルを背負った姉のすみれに手を引かれ、泣きながら歩いていた記憶。

走ってきた男の子の言葉—。

祐希と目を合わせれば、次第に顔が熱くなる。
顔を逸らそうにも、祐希の手に絡めとられた髪の毛があって、逃してくれなかった。


「また会ったんだから、約束、有効だろ?」


あおいの顔が真っ赤になっても祐希は笑わず、ただ答えを待った。

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