義兄と結婚生活を始めます
相変わらずな無表情であおいを見下ろす和真。
あおいは慌てて後ずさった。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ。何か用でしたか?」
「いや!あのっ、なかなか来ないので…その、呼びに来て…しまいました…」
ハキハキと答えていたはずが、言い終わる頃には小さな声となり、俯いてしまった。
代わりに指をもじもじさせて、次の言葉を探す。
「…少し、様子がおかしいようで、一緒にいていいのか悩んでいました」
「へ…?」
突然の和真の悩みに、自分の恥ずかしさが一瞬にして吹き飛んでしまった。
「涼介にも指摘されたのですが、くしゃみと咳が少しあり…のども痛いような…」
「それ!風邪のひき始めですよ!のど、どのくらい痛いですか?ご飯は食べられそうですか?」
「…問題ありません」
あおいの怒涛の質問に気圧されつつ、和真は一緒にリビングへ向かった。
「食べやすいお粥とかにしましょうか?」
「いえ。せっかく作ってくださったので、いただきます」
席に着くと、用意されているご飯を食べ始める和真。
あおいは箸を持つものの、心配そうに和真を見てご飯が進まない。
「あの、今日はすぐに休んでくださいね…?」
「やることがあるので、それが終わったら寝ます」
「絶対ですよ?遅くまで頑張ったらダメですよ…?」
もぐもぐと食べていた和真は、飲み込んだ後、箸を置いた。
「頑張ったら、怒りますか?」
「お、怒ります…!」
ガタっと立ち上がるあおいは、必死な顔になる。
「和真さんが心配だから…無理しないで…」
「……わかりました」
食べ終わった食器を重ね、キッチンの流しへ持って行った。
あおいの元へ行くと、ポンっと、頭に手を置く。
「一時間ほどしたら休みますので、大丈夫ですよ」
「……はい。すみません…」
「こちらこそ。…こういうときはどう返したらいいのかわからず…」
「え?」
和真を見上げれば、少し恥ずかしそうな表情が見えた。
あおいはこの言葉の意味がよくわからなかったが、和真を困らせているのかと不安になった。
「えっと…あの、体調が良くないときは、ゆっくりしてください…」
「…わかりました。では、あとでコーヒーをお願いできますか?」
「はい!」
ニコッと笑ったあおいを見ると、ホッとした和真は自室へと戻って行った。
あおいもすぐにご飯を食べ終え、片付けながらコーヒーのためのお湯を沸かす。
片付けの途中、お湯の沸ける音が聞こえてくると、コーヒー缶を手に持ったが、少し考えて戸棚に入れた。
代わりに、冷蔵庫からある物を取り出して、いつもの飲み物とは違う物を作った。
コンコン
ドアのノック音が聞こえた和真は、ドアを開ける。
マグカップを持つあおいがいたが、コーヒーの香りがしないことに気付いた。
「風のひき始めだと思うので、コーヒーは良くないかな…と思って…」
「……」
一見、白湯のように見える液体は、ほのかにレモンの香りがする。
「はちみつレモンなんですけど……どうでしょうか…」
「いただきます」
和真はあおいの手からマグカップを受け取ると、一口飲んだ。
「優しい味ですね。美味しいです。もう終わるので、これを飲んだら寝ますよ」
「良かったです…。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
二人は笑みを見せあうと、お互いの部屋へ戻って行った。