義兄と結婚生活を始めます
「怒ってませんよ。彼の言っていたことは正しいですから」

「え…?」

「…あおいさんは、海崎すみれさんが見つかるまでの‟代役”であることを、僕も失念してしまっていました。看病までさせるのは負担であり、間違っていました。すみません」


少しうつむき気味の和真は、謝罪の言葉だけをポツリとこぼすように、小さな声で言った。


「ち、違います!!私は…か、和真さんのことが心配で…!……ダメなんですか…?」

「……」

「代役の私は、和真さんを心配するのもダメなんですか?…っ」


あおいの目から、思わず涙がこぼれかけると、慌ててゴシゴシと拭いた。
和真は立ち上がると、必死に拭うあおいの腕を掴んで止める。


「ご、ごめんなさ…っ」

「ダメじゃないです」


まだ、涙が少し浮かぶあおいは、和真を見上げた。
その表情は柔らかく、どこか嬉しそうに見えた。


「あおいさんになら心配されたい、とは思いますが、負担はかけたくありません」

「全然…!全然そんなことありません!」


和真は、そっとあおいの涙を指で拭う。
赤面したあおいは、バッと顔を逸らした。


「ごご、ごめんなさい!あのっ、泣くつもりはなくて…!」

「泣かせたのは僕なので」


逸らした側へ追いかけるように、和真の手はあおいの顔に触れる。
あの日意識した和真の手に拭われていると感じると、顔はさらに熱くなった。


「…あおいさん、顔が赤いですが…もしかして僕の熱が移った」

「りはしてません!!こ、これは!その!か、和真さんの手が…!!」

「僕の手?」


涙を拭う手と反対の手は、あおいの腕を掴んで離さない状態。
あおいの熱くなる理由が今もわからない和真は、あおいの顔を覗き込んだ。


「僕の手がなんですか?」

「あ…」



ぐううううぅ…



あおいの方から聞こえてくるお腹を空かせる音。
勢いをつけて和真の手を振り払うと、背を向けてしゃがみ込んだ。


「…ふ…」

「絶対笑ってますよね!!?」

「……笑っていません」

「笑いました!!」


背を向けたままでも和真の様子がわかるのか、耳まで真っ赤になるあおい。
和真は、口元を手で押さえながら、肩を震わせていた。

おそるおそる振り返るあおいに、和真は微笑んで待っていた。


「…~っ、ご飯の用意します…!」

「はい。わかりました」


あおいはゆっくりと立ち上がってキッチンへ向かう際に、和真はソファーへ腰かけながら言った。


「…食後は、ココアがいいです。一緒に飲みましょう」

「わかりました…」


顔の熱は残るものの、和真のリクエストを承諾した。
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