義兄と結婚生活を始めます
「…ここはショコラのケーキがおすすめ。コーヒーにも合うわよ、和真」
「結構です」
「じゃあ、俺はそれ頼もうかな」
近くにいた店員に注文し終えると、和真が立ち上がりお金を置いた。
「先に戻ります。会計はこれで足りるでしょう」
「あい~」
「……」
去って行く和真の背中を見つめ終えた由梨子は、ため息をついた。
コップの水を飲みながら、デザートを待つ涼介は、チラリと由梨子を見る。
「和真の前で、あんまりあおいちゃん絡みの話はしない方が、会話が続くんじゃない?」
「…その子以外の話をしても、続かないわよ。…昔から…」
ぽそっと呟いた由梨子は、悔しそうに膝に置いていたハンカチを握りしめた。
涼介の前に、注文したデザートが届くと、そのまま由梨子の前に差し出した。
「不器用だねぇ」
「な…!」
「糖分取って、午後も頑張りましょう~」
頬杖をついた涼介は、由梨子を見てニヤッと笑った。
その笑みに渋々折れた由梨子は、ケーキを少しずつ食べ始める。
そして、食事と会計を済ませた二人は、一緒に店を出た。
涼介と由梨子が戻ったときには、和真は業務についていた。
「お前、ちゃんと休憩しろよ」
「しましたよ」
「コーヒーブレイクは、コーヒー飲むだけじゃありませんー」
呆れる涼介をよそに、デスクトップ画面を見ながら、由梨子のデスクに書類を置く。
「山田商社から追加の発注と新規契約の話が上がっているので、確認しておいてください」
「えぇ…」
由梨子も席に着いて書類を確認し始めた。
二人が業務に入ったことで、涼介も自分のデスクに向かう。
「これ、共有ファイルに入れてあるの?」
「はい。由梨子が確認してから、報告しようと思っています」
「え?」
「細かな部分、特に数値に関して徹底して見ているでしょう。だから、訂正が少ないので助かっています」
思わぬ褒め言葉に、由梨子は赤くなる顔を逸らしつつ、書類の確認を続けた。
…—
帰宅したあおいは、着替えをすると、キッチンへ向かう。
(昨日のシチュー残ってるなぁ……グラタンにしようかなぁ…)
冷蔵庫を開けて少し考えていると、ポケットに入れていたスマホに通知が入った。
同時に、玄関のドアが開く音がしたため、先に玄関へ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「今日は早かったですね」
「…偶には早く帰りたい日もありますよ」
あおいの頭をポンポンと撫でると、和真は自室へ行ってしまった。
朝と同じ感覚を思い出すと、スマホの通知を開く。
由梨子からショートメールが届いていた。
『日曜日の11時、Nカフェで待ってるわ』
たった一文だけのメールに、あおいの胸中は不安と緊張が一層大きくなった。
唇をキュッと閉じると、スマホをポケットに入れて、キッチンへ行った。