義兄と結婚生活を始めます
…—
退勤時間になると同時に、和真は立ち上がり、すぐにオフィスを出た。
途中、すれ違う由梨子の声にすら答えず、すぐに外へ出ていく。

事前に連絡していたのか、三森がすでにロータリーで待っていた。


「今日は早めに帰りたいです」

「かしこまりました」


ドアを閉められて、すぐに発車する。
鞄からタブレットを取り出し、操作し始めると一瞬手を止めた。

じっと画面を見つめていると、スマホに着信が入った。
画面を見てため息をつくが、着信に出ることはない。

しかし、しつこく鳴り続けるスマホに折れ、渋々と着信に応じた。


「和真!すぐに出らんか!」

「移動中ですよ、社長。申し訳ありません」

「今夜、草野県議員と会食になってな。子息も来られるようだから、お前も挨拶に来なさい」

「…草野さんのご子息とは、学園でお会いしてすでに挨拶しています」

「和真」


電話越しでも、この一言の声は重く感じたのか、和真は少し間を置いて答えた。


「わかりました。場所はいつもの店でいいんでしょうか?」

「あぁ。あまり待たせるな」

「……三森さん、いつもの料亭に向かってください。会食です」

「かしこまりました」


ため息をつく和真は、眉間にしわを寄せる。
三森は言われたままハンドルを切ると、指定された料亭に向かった。

ついにタブレットを鞄に入れ、腕組みをしてしまった和真は、車窓から見える景色を眺めた。







しばらく車が走っていたが、目的地に着くと、丁寧にゆっくりと停車した。
三森が後部座席のドアを開けると、和真が降りて、料亭へと入って行く。

店員に案内されれば障子が開かれた。


「お待たせいたしました」

「おぉ、やっと来たか」

「これはこれは!お久しぶりですな、和真くん」

「数年ぶりですね、草野議員」


小鳥遊社長の隣の席に座ると、対面にいる制服姿の祐希と目が合った。


「先ほど聞きましたが、息子とはすでに会っていたとか!息子の祐希です」

「どうも、小鳥遊さん」

「ご立派なご子息と伺っています、どうも」


お互いに挨拶を交わしている途中、和真の前にお膳が運ばれてくる。
膳には手を付けず、まずはお茶を飲む和真。


「和真くんに褒められるとは恐縮ですね。最近は試験勉強に熱心な子に教えているそうで。なぁ、祐希」

「ほぉ。聡明な祐希くんに教えてもらえるのは、鼻が高くなりますなぁ」

「いえ。教えている友人が頑張っているから、応えたいだけですよ」

「お、いっちょ前に大人ぶったな?祐希」


社長の褒め言葉に対して、背伸びした返答を茶化す父親を小突く祐希。
その様子を、いまだお茶を飲みながら、和真は眺めるように見つめた。
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