義兄と結婚生活を始めます
「ん~おいしい~!評判通りだわ」
「…結構甘いですね……」
その一言だけ残すと、黙々と食べ続ける和真。
残さずしっかりと食べた後は、口直しにブラックコーヒーを飲んだ。
「この甘さがいいのに…」
「わかりました。覚えておきます」
「あ。あおいちゃんに作んの?」
まだ食べている途中の涼介が、思わず名前を口にしてハッとしたが、遅かった。
和真と由梨子、二人の刺すような視線を向けられることになる。
由梨子はすぐに顔を戻して、笑顔で和真に聞いた。
「あおいさん?あの、あおいさんに作ってあげるの?」
「あ~!あ!俺の間違いだと思うんだよねっ、うん!ごめんごめん」
「ねぇ、もしかして普段から料理なんてしてるの、和真!?」
「…あおいさんにばかり、させられないでしょう」
深いため息をついた由梨子は、ムッとした表情で和真を見る。
由梨子に構わない和真は、コーヒーを飲んで、カップで視線を遮った。
「小鳥遊の跡取りが料理なんて…!おじ様が聞いたら卒倒するわ!」
「誰に迷惑をかけているわけでもないんですから、関係ありません」
「あるわよ!!私にだって…!」
グッと押し黙った由梨子は、顔を赤らめると和真から視線を逸らした。
ようやく食べ終えた涼介も加わろうとすると、由梨子が立ち上がる。
「…先に戻るわ…」
「んぐっ、ちょ、由梨子ちゃ…!……あー……わりぃ…」
「いいえ、構いません。今日のランチ代は僕が持ちます」
涼介の制止を待たず、店から走るように出て行った由梨子を見た後、和真に手を合わせて頭を下げる。
「…前に、あおいさんにフレンチトーストを作ったら、甘めがいいと言っていたので。一般的な甘さを知っておきたかったんです」
「……本当に料理してんのか…」
「休日くらいですけどね」
由梨子のことが過る涼介は、目の前で柔らかな表情で話す和真を見ると、ビッと指をさした。
「和真、一回由梨子ちゃんと話しろ。んで、偽装伝えろ。そして楽しいランチ会にしよう真面目に」
「何ですか、急に」
「ちょうどいいだろ。お姉さんも見つかったんだし、ギスギスランチもやだし。少なくとも、由梨子ちゃんがあおいちゃんを義妹と認定すれば、変なこと言われなくなるだろ」
「それは……嫌ですね」
残ったコーヒーを見つめたまま、ぼそっと呟いた和真は、伝票を持って立ち上がった。
スタスタと会計に向かえば、置いて行かれたことにようやく気付く涼介が慌てて追いかける。
「なぁ、和真」
「……」
「おいって」
「…由梨子には、時期を見て話しますよ。…きちんと」
後ろから声をかけていた涼介は、ニッと笑うと和真の横に並んで歩き、二人は一緒に自社へと戻って行った。