義兄と結婚生活を始めます
幸いというべきか、由梨子は別の業務を他の社員と行っているのが見えた。
電源を入れていたデスクトップを見ていると、涼介がやって来た。


「っす、どこ行ってた?あ、これ確認とサイン欲しい書類たち」

「社長のところへ」

「……は?」


涼介から差し出された書類を受け取り、目を通す。


「海崎すみれさんの帰国の報告と、話し合いの日程確認です。大したことではありません」

「大したことすぎるでしょ。え、は?もう帰国してくんの?」

「…もう…とは?タイミングがあるでしょう」

「だっておまっ…!」


大きな声になりかけた涼介の口を塞ぐように、顔面に書類をぶつけた。


「声が大きいです。こちら、確認とサインしておきました」

「……昼メシのとき聞くからな」

「今日は昼食は食べません。外回りが入ったので、そのまま行って直帰します」

「あぁん!?………絶対、話せよ!?逃げんなよ!?はぐらかすなよ!?ごまかすなよ!?」


涼介はプンスカと怒りながら、書類を持って戻っていく。


「…わかってますよ」


答えるようにボソッと呟くと、自分の業務に集中した。













…ー
本当に直帰した和真は、予定よりも早い帰宅に、自分でも驚いていた。
時計を見ると15時40分。

自室で着替えを済ませ、椅子に座っていた。
膝起きに頬杖をついて、しばらく考えごとをする。

社長との会話のやり取りを思い出し、おそらく社長の方にも、情報が流れていたであろうことを悟った。
そして、すみれの帰国直後の話し合いを設けたのは、海崎家側に意思を変えさせないためなのか…。


「…余計な考えを持ち込まずに進める気か…」


ぽつりと言葉をこぼすと、リビングの方から音がするのに気づいた。
立ち上がって自室を出ると、制服姿のあおいと鉢合わせる。


「今日、すごく早いですね!おかえりなさい」

「…ただいま」

「すぐに、ご飯の支度しますね!」


笑顔を見せて自室へ入ろうとするあおいの手を、和真が掴んだ。


「僕が先に帰ってきたので、逆です」

「え?」

「おかえりなさい」

「…たっ、ただいま…です…」


顔を赤くして、照れながら返してくれるあおいを見ると、自然と表情が緩み、力んでいた体から力が抜けるのがわかった。


「今日は僕も支度を手伝いますよ」

「え!?…あ…ありがとうございます…」


名残惜しそうにあおいの手を離すと、そのままリビングに向かった。
真っ赤になるあおいも、部屋に入って着替えを済ませる。


(平常心…!平常心…!)


ぺちぺちと頰を軽く叩くと、部屋を出てキッチンへ。
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