義兄と結婚生活を始めます
…―

重役たちの会議に出席していた和真は、ポケットの中で一瞬震えたスマホに気づいた。
しかし、会議中に取り出して見ることはできないため、そのままにする。

会議が終わると、すぐに重役たちの後について歩き、会話へ受け答えをしてオフィスに戻った。
席についた瞬間に、スマホが震えていたことを思い出すと、取り出して受信したメッセージに目を通す。


『小鳥遊さん。今朝は起きられずにごめんなさい。お店で食べるようなオムレツ、とっても美味しかったです。』


あおいからのメッセージであることに気づくと、すぐに立ち上がりオフィスの廊下へと出た。
あおいの電話番号を表示すると、ほんの少し指が躊躇うものの、発信音を耳元で聞く。


「も、もしもし…」

「メッセージを読みました。朝は声をかけたのですが、返事がなかったのでそのまま出ました」

「い、いえ!起きれずにすみません…明日からはきちんと起きます!」


電話越しでもわかるほど、あおいは緊張感を持って自分と話してくれていると感じた和真。
小さくため息をつくと、口を開く。


「昨日も言いましたが、あおいさんには期待していません。だから、無理に起きる必要もないです」

「……はい…」

「では、切ります」


あおいの小さな返事を聞いてから電話を切った和真は、そのままスマホの画面を見つめて少し考えた。
すると、背後から肩に腕を回される。


「わっ」


腕の主へ呆れた眼差しを向けた和真。
視線が合った相手は、ニカッと笑う。


「よっ、次期社長の和真様!久しぶり~」

「…決まっていません…が、お久しぶりですね、涼介」

「大学以来だよな~、入社して翌日に他県に出向なんて、お前の親父さんきつくない?」


和真から腕を離したのは、福島涼介。
和真の唯一の友人でもあり、有名政治家の息子でもある。

涼介の言い分に耳を貸していないのか、全く返事をしない和真は、スーツの襟を整えた。
すると、ニンマリ笑う涼介は、肘で和真を小突く。


「で?今の電話誰?女の子だろ~?あおいさんとか…彼女ができたなら教えろよ~!」

「彼女じゃありません。妻です」

「………はぁぁあ!?」



時差のある驚いた声は、和真の耳に響いた。
キンキンする耳を抑える和真に、涼介は質問をいくつも投げる。


「なっ、は!?妻!?何お前!!結婚したの!?」

「はい。昨日しました」

「昨日!?嘘でしょ!?俺なんの招待も受けてないよ!?親友じゃなかったっけ!?てか、昨日結婚してなんで今日出勤してんだよ!数日は奥さんと過ごせよ!」


矢継ぎ早に話す涼介に、鬱陶しさを感じつつある和真。
涼介を置いて、オフィスに戻っていく。


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