義兄と結婚生活を始めます
「いや!答えてよ!」
去って行く和真の背中に、泣き言を告げていたが、和真はピタリと止まる。
涼介に振り返ると、今度は和真が質問をした。
「なんでここにいるんですか?」
「俺が質問してんだけど!!出向先で本格的に勤務する前に、本社のここで研修期間を過ごせってさ。しばらくは、俺を教育してねン」
「それは指導係に言ってください」
嬉しそうに和真の肩に再び腕を回す涼介を、バッサリ斬り落とす。
しかし、涼介は和真の心配をした。
「それよりも和真。奥さん…というより、女性相手にあんな言い方は誤解されるぞ」
「…誤解…ですか?」
オフィスの扉を開けようとしていた和真は、手を止めて涼介を見る。
全く意味が分からない和真は、キョトンとした表情をした。
何も気づいていない様子の和真に対して、大きなため息をつく涼介。
「はぁ~…お前のことだから、親父さんの決定に従ったんだろうけど、期待してない、なんて言葉は相手を傷つけるだけだ」
「………」
「とりあえず、お前が他人に興味がないってのは俺くらいしか知らないんだから、伝え方に気をつけろ!女の子には優しくが基本!」
ビシッと指をさす涼介の言葉に、和真は何も言えなかった。
動きが止まったままになった和真の顔を、覗き込む涼介。
「そうですね…涼介の言う通りかもしれません」
「…こわ…なに、素直すぎて怖い…熱あんの?」
鳥肌を見せつけてくる涼介を他所に、和真の頭には昨夜からのあおいの様子や、電話での様子を思い返していた。
オフィスに入った二人は、すぐに仕事に入る。
…―
和真との電話を終えたあおいは、しばらくベッドで横になっていた。
ボーっと床を眺めるあおい。
「…私がすることは、小鳥遊さんの迷惑になるのかな…」
ボソッと呟くと、薄っすら涙が浮かび始める。
しかし、ガバッと起き上がると、自分の両頬をパチンと叩いた。
(夕飯だけは作ろう!小鳥遊さんは朝ご飯を作ってくれたし!私、暇だし!!)
頬にヒリヒリとした痛みを感じながらも、あおいはベッドから立ち上がって自分の財布を取り出す。
財布の中にあるお金の金額を数え、自分が作れそうで和真も食べられそうなメニューを考え始めた。
着替えをして、支度を整えると机に置いてあったカードキーを取り、部屋を出る。
玄関に向かい、靴を履いてリビングの方へ振り返った。
「い…行ってきます…」
静かな部屋に響いたあおいの挨拶に、返事をする人は誰もいない。
寂しさを感じつつも、あおいは家を出た。