義兄と結婚生活を始めます
あおいの後ろから田中らしき人の声が聞こえてくると、急に体が持ち上げられた。


「!?」

「失礼します。少し走りますね」

「え!?」


あおいを抱き上げると、非常階段の方へ向かい、急いで駆け下りていく。
数階駆け下りるうちに、和真の息が上がるのがわかれば、あおいの顔も赤くなった。


「はぁ…っ…」

「か、和真さんっ、私走れます…!」

「…急ぐので、危ないですからこのままで…っ」


和真の言葉に大人しくなるあおいは、階を降りるごとに、胸の高鳴りが大きくなるのを感じた。
そして、和真が見慣れたロビーを見かけると、あおいを下ろし、手を引いてエレベーターへ向かった。

行き交う職員たちからの、挨拶とも呼べない声掛けを初めて無視して、閉まりかけたエレベーターへ急ぐ。


「乗ります…!」

「は、はい!!」


乗っていた職員が慌てて『開く』ボタンを押した。
ニ、三人乗っていたエレベーターの中心に、息切れする和真と明望学園の制服を着たあおいが立つのは、特に視線を集めた。

しばらくして、エレベーターが一階につくと、扉が開く。


「んで…あ?和真」

「失礼、急いでます」

「ちょ、和真!…あおい、さん…!?」


驚く涼介と由梨子の言葉にすら答えることなく、和真たちは外へ出た。
和真がロータリーを見渡していると、手を振る三森の姿を見つけて、かけていく。


「こちらキーでございます」

「後ほど、連絡することを海崎さんにお伝えしてください」

「かしこまりました」

「あおいさん、乗ってください」


自前の車と一緒に待たせていたようで、三森からキーを受け取ると、すぐに助手席のドアを開けた。
戸惑いつつも、周りを気にする和真を見て、言われるまま乗った。

あおいが乗った後、和真も運転席に乗り込むと、すぐに車を発車させる。


「このまま家に帰りますね」

「あの…!話し合いをしないと…!」

「勉強を教える約束がありますので。テストも近いですし、時間は有限ですよ」

「そ、そういうことでは…」


運転中の和真の邪魔をするわけにもいかないと思ったのか、あおいはそれ以上何も言わなかった。
置いてきた家族のことを考えながらも、ドキドキする気持ちを必死に抑えようとした。

片手でネクタイを緩める和真に、視線だけ向ければ、首元が汗ばんでいるのに気づく。
人目も気にせず、涼介たちの言葉すら聞こうとせずに、自分を運んでくれた和真。


(…和真さんの問題って…なに…?)


黙って運転を続ける和真の考えもわからないあおいは、今はただただ、流れていく景色を見つめ続けた。

< 198 / 234 >

この作品をシェア

pagetop