義兄と結婚生活を始めます
「え!?由梨子ちゃん!?ちょ、こっちこっち!」
由梨子の肩を掴んで、先ほど和真といた、休憩コーナーの隅に連れていく。
自分でハンカチを取り出して目元を押さえる由梨子をよそに、涼介はカフェラテの缶を購入した。
「ほい。落ち着いた?」
「……ありがと…」
涼介から差し出された缶を受け取ると、じっと見つめた。
「…ぽっとでのお子様よ?相手…」
「まぁ…いんじゃないの?和真が決めたんだしさ。かえってスッキリしたんじゃない?」
「涼介くん…フラれる女の気持ち、理解してないでしょ…」
「ん〜…じゃあさ、今度は俺に教えてよ」
「は…?」
鼻を啜りながら、ハンカチで口元を押さえる由梨子に、涼介はニヤっと笑った。
…ー
コンコンと、社長室のドアを叩く和真。
扉が開けば、ひょこっと田中が顔を出し、少し驚いた。
「…和真様。社長は今、別件で」
「スケジュールを変えられる前に来ました」
「あ…!か、和真様!」
自らドアを開いて中に入れば、机に着いて書類を書いていた小鳥遊社長の前に立った。
「…予定は来週の火曜日ではなかったか?和真」
「しらを通されるより、出向いた方が早いと判断しました」
「………話す価値のない話題は聞かん」
「先に海崎すみれさんの件で、こちらをかき回していたのですから、聞いていただきます」
お互いに睨み合うように視線を交わすと、先に社長が逸らした。
「海崎あおいは何の素養もなければ、学歴もない。小鳥遊には要らん。ほら、話は終わった。仕事に戻れ」
「…なら、僕が小鳥遊を捨てますよ。父さん」
和真の言葉にピクっと反応を示す社長。
今度こそ、ジロリと和真を睨みつけて、立ち上がる。
「…何を言っているのかわかっているのか…?」
「あおいさん以外いりませんよ。僕が守るべきは小鳥遊ではなく、あおいさんです」
「お前…ただの小娘にたらしこめられたのか?お前は小鳥遊の跡取りだ!生まれた時から!!そう教育してきただろう!!」
「母さんからは、そんな言葉を聞いたことはありません。泣いていたら拭ってあげられる人に、笑う人と一緒に笑い合えるように、気持ちを大切にすることを教えられました。…今の父さんとは逆ですね」
「………っ…」
真っ直ぐに父親を見つめる和真の頭には、今朝の笑っていたあおいが浮かぶ。
“小鳥遊さんっ"
社長の頭にも、着物を着て笑う、誰かが浮かんだ。
「…ゆき子の言葉を使うとはな……ふっ…」
そう呟くと、ゆっくりと椅子に座った。