義兄と結婚生活を始めます
34話
「ほんのわずかですが、最近、あたたかい家族を見ました。小言を言い合えて笑い合える、ありふれたひとつの家族だと思います…僕らもそうだったんじゃないでしょうか?」
「………もうずいぶんと昔だな…」
「僕はあおいさんと一緒に…そんな家族になりたいと思いました。小鳥遊があってもなくても、僕を見てくれるあおいさんは手放せません」
「…青臭いな……が、どこかで聞いたことがあるな………お前が小鳥遊の跡取りなのは変わらん。…苦労するぞ?」
「そのつもりですよ」
和真は目を伏せて笑うと、社長に会釈をして踵を返した。
歩き出した一歩目で止まると、少しだけ振り返る。
「…次はあおいさんと来ます」
「……勝手にしろ。わしは会わん」
目を合わさず、先ほど書いていた書類に視線を落とす社長。
和真も何も言わず、前を向いて、田中の開けるドアとは反対に、閉まっているドアを開けて出て行った。
…ー
仕事を終えた和真は、車の窓から見える暗がりの外を眺めた。
赤信号で止まる時間すら、少し惜しいとさえ感じる。
自宅の道に近づけば、自然と表情が緩んだ。
帰ればきっと、迎えてくれるだろうあおいの姿を想像した。
ようやく自宅のドアを解錠して開けると、聞き慣れた小走りする音が聞こえてくる。
「おかえりなさい」
振り返れば、笑顔のあおいがそこにあった。
和真も微笑みを見せる。
「ただいま」
靴を脱いで上がると、あおいの頭をポンポンと撫でた。
そして、いつものように、自分は着替えのために自室へ行き、あおいはキッチンへ戻る。
リビングへ行けば、今度はあたたかい食卓と共に迎えられた。
「和真さん、その…食後に、教えてほしいところがあって…いいですか?」
「もちろんですよ。苦手な範囲ですか?」
「うーん…そう、かも…」
考えながら答えるあおいは、数学とマーケティングの仕組みを思い浮かべながら、おみそ汁を飲む。
自分との会話に敬語がなくなるほど、大変なのだろうと思う反面、砕けて接してくれているのか、と嬉しさを感じた和真。
食事などを終えると、さっそくダイニングテーブルに教科書とノート、前回テストの答案用紙が広げられた。
「マーケティングはここの部分ですね。この図が…」
「数式はこちらを使います。これは応用にも使えるので、覚えるならこちらが良いでしょう」
教えられることがどんどん増えてくると、あおいの思考も停止気味になる。
半分は眠気もあるのだろう、目を擦るあおい。
和真は、コーヒーを淹れてキッチンから戻ってくると、机に伏して眠るあおいに気づいた。