義兄と結婚生活を始めます

「れ、練習…なので…!」


自棄になったのか、あおいは前向きな言葉で返事をした。
すると、再度ソファーへ腰を下ろし直してくれる和真。


「ありがとうございます。では、あおいさんは敬語をなくしましょう」

「それは……和真さんは年上なので…難しいです…」

「…わかりました。徐々になくしてください」


(あ…諦めないんだ…)


和真の強い意志を感じるあおい。
ふと、起きてからのことを思い出して、話題へ繋げようとした。


「そうだ!今朝は起きられなくてごめんなさい!でも、和真さんのオムレツ、すっごく美味しかったです!」

「お口に合って良かったです」

「えっと、和真さんの料理、お店の味みたいで…なんだか優雅な気分になりましたよ~」


笑みをこぼすあおいを見てから、和真はコーヒーを飲む。
それ以降、何も反応がない和真をチラッと見ると、耳を赤くしていた。


(わ、ぁ…!)


「ベーコンエッグとオムレツ、どちらが好きかわからなかったので、どちらも用意しましたが…オムレツの方を気に入ったのでしたら、また作ります」

「うん!…あ、はい…」


笑顔で返事をしたあおいは、すぐに手で口を覆った。
あおいの言葉遣いに顔を向けた和真は、ポンっとあおいの頭に手を置いた。


「よくできました」

「……っ!!」

「では、僕は明日も仕事があるので、部屋に戻ります。あおいさんはどうしますか?」


あおいが真っ赤になるときには、和真は立ち上がり、コーヒーカップを手に持つ。
慌ててあおいも立ち上がり、和真のカップへ手を伸ばした。


「洗い物を終わらせてから戻ります!」

「…お願いします。それでは、おやすみなさい」

「おやすみなさい!」


俯き気味のあおいへ、不思議そうな視線を向けた和真はリビングのドアへ歩を進めかけた。
ふと、立ち止まってあおいに振り返る。


「今、言葉がわかりました。期待してない、という言葉は不適切でしたね。あおいさんは妻役の意識をせずに、自由に生活してください」


「え…?」

「これからは学校生活も始まるでしょうから、学業にも専念していただければ…と思います」


特に、表情を変えない和真に、あおいは驚きで返事ができなかった。
固まったままのあおいの様子をじっと見ては、返事を待つ和真。


「…やっぱり間違えていますか?」

「や、すみません…伝わってます!大丈夫です!…でも、和真さんの迷惑じゃなかったら、家のことをしてもいいですか?」

「僕は問題ありません。では…」


あおいへ言葉を残すと、リビングから去っていった。
和真が自室へ入る音を聞き取ると、あおいはその場にへたり込む。


(は…破壊力が…すごい…!!)


少しの時間で和真の変化を感じ取ったあおいは、バクバクとなる心音と脳内の処理が追いつかなかったが、一つだけハッキリと分かることがあった。


「…でも、優しい人だな…和真さん…」


ポツリと呟くと、これからの和真との生活に対して、確実に前向きになれる、そんな自分がいたというこに…。
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