義兄と結婚生活を始めます
…―

オフィスで仕事をしていた和真は、時計を見て休憩時間に入ることを決めた。
立ち上がると、斜め向かいに座って電話をする涼介へ視線を向ける。

和真の視線に気づいた涼介は、二ッと笑って先に出ているよう、出入り口を指さした。
コクリと頷く和真は、飲み終えた缶コーヒーを持って、オフィスのフロアから出る。


「悪いな!でも、和真からメシ誘ってくれるなんてめちゃくちゃレアじゃん!」

「いえ…」

「あっこのフレンチ行こうぜ!パスタがすんごいうまい!コーヒーも和真好みと思うぞ」


会社を出ると、お店の方角を指さして、誘う涼介。
進み始める涼介について、和真は後ろを歩いた。

レトロなお店に入ると、店員の案内を受けた二人は、向かい合わせに座る。


「どのパスタにしよっかな~」


渡されたメニュー表を広げながら、涼介はウキウキして眺めた。
同じようにメニュー表を見る和真は、涼介を見る。


「今日は僕が出すので、好きなの頼んでください」

「まじで!?じゃあ、この極上ベーコンピザ食いたい!あと、サーロインにライス付けちゃお!」

「パスタはどうしたんですか…」


呆れつつも、店員を呼んで注文をする二人。
メニュー表を閉じた涼介は、じっと和真を見る。


「…で?何で奢ってくれんの?俺、なんか良いことした?」

「まぁ…そうですね、一応…アドバイスをいただいたので…お礼、ということで」

「へへっ、俺やるだろう~」


涼介は頬杖をつくと、嬉しそうに笑った。


「にしても、あの和真が女の子で悩む日が来るとは…というより、結婚する日が来るなんてな~……でも、親父さんがなんか企んでるだろ?」

「わかりません。あの父ですから、ただの気まぐれかもしれないですし…さすがに学生を小鳥遊に引き入れたとなると…そういうことも視野に入れておかないとですね」


運ばれてきたコーヒーカップを見つめた和真は、コーヒーに映る自分を見て一口飲む。
コーヒーの美味しさを評価する和真だが、涼介は驚きを見せた。


「え!?結婚相手って学生!?」

「はい。来月の4月に高校に入学します。あと、声が大きいです」

「まさかの女子高校生!?」


開いた口が塞がらない状態の涼介の前に、料理が運ばれてくる。
さっそくフォークとナイフを取り出して、話の続きを求めた。


「それ大丈夫なやつ?合法?」

「言い方…。元々結婚する予定の女性が式当日に行方不明、その妹であるあおいさんに代役として新婦になってもらいました」


サラダを口にする和真は、当日から現在までの状況を簡潔に涼介へ伝える。
食べ終わる頃には、和真の状況を理解した涼介が、妙な納得感を得た。


「…あんまり驚かないんですね」

「うーん…そのあおいちゃんと和真には同情するけど…お姉さんの方はなぁんで居なくなったのかなぁっていう考えの方が強いかな」

「それは…僕との結婚が嫌だったのでしょう。面識もありませんし」


腑に落ちない表情を見せる涼介。
自分なりの考えを伝えた和真は、残り少ないコーヒーを飲み干した。

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