義兄と結婚生活を始めます
書いたメモ用紙を切り取ると、あおいの父親へ差し出した。
受け取るあおいの父親を見て、微笑む和真。
「…やっぱりあおいさんのお父さんですね」
「え?えぇ…そうですけど…?」
和真の突然の言葉にキョトンとするあおいの父親。
「僕にはないものを持っています」
「…?」
「先に戻ります。お疲れ様です」
すぐに無表情になると、和真は階段へ向かった。
あおいの父親も返事をすると、去っていく和真に頭を下げる。
それから、階段を昇る和真はポケットからスマホを取り出した。
タプタプと操作すると、スマホを耳元へ近づける。
しばらくコール音が続いたが、相手が通話に出た。
「もしもし、和真さん?どうしたの…?」
「……あ…特に…用事がありませんでした…」
「え!?」
びっくりしているあおいに対して、無意識に電話をしていた自分に対しても驚いている和真。
階段を昇る足は止めず、何か話題を切り出そうと考えていた。
「和真さんから電話してきたから、何かあったのかと思いました…何もないんですよね?」
「はい。何もありま……す」
「え!?どうしたんですか!?」
電話越しでもわかるほど、緊張感を帯びるあおいの声。
少し考えた後に、和真が答えた。
「なんだか、あおいさんの声を聞きたいと思ってかけました」
「へ…」
「ふふ、なんだか良いですね。あ、今日は調べものがあるので、帰りが19時ごろになります。でも、夕食は一緒に食べたいので待っていてください」
しかし、あおいから何も返答がない。
急な無言に和真は不思議になった。
「あおいさん?…急な電話は失礼でしたね…すみません」
「…ち、ちが…っ!ちょっと頭が追いつかなくて…!」
「え?」
あおいの言葉の意味がわからず、スマホを持ったまま首を傾げる。
電話向こうから咳払いが聞こえると、あおいの声が耳に入った。
「えっと、電話をくれて嬉しいです!夕食も作って待ってますね!」
「はい。ありがとうございます。仕事に戻ります」
「お仕事、頑張ってください!」
明るい声を聞いてからスマホを切ると、しばらく画面を見つめた和真は、柔らかな表情を見せて階段を昇った。
…―
業務をこなしつつ、会議に参加しつつ…などをしていると、オフィスのフロアから人の気配が減っていることに気づく和真。
しかし、特にフロア内を見渡すことはせずに、パソコンの画面とスマホの画面を見ながらメモを取っていた。
すると、背後から缶コーヒーが置かれる。
振り返った先には、同じコーヒーを飲む涼介が手を挙げた。
「ありがとうございます」
「んん。…残業?めっずらしいじゃん」
「いえ、私用です。通常業務のほとんどは15時に終わらせてます」
サラッとスピード力を物語った和真に、何とも言えない感情になる涼介。
ふと、和真が見ているパソコンの画面が視界に入った。