義兄と結婚生活を始めます

改札口に背を向けたあおいは、駅の出口へ歩いて向かう。
視線を落とし、千尋の言葉を思い返していると、肩に掛けたショップの紙袋の音で思い返していた言葉をかき消した。


「あ…夕食の食材買っておこう…」


和真との家の途中にあるお店へ、向かうことを決めたあおいは顔を上げる。


(…今は、明日の土曜日のことを考えよう…和真さんとデ……)


自分で言ってしまいそうになることに、恥ずかしさがこみ上げて顔が赤くなるあおい。
ふと、夕暮れに染まっている空に対して、時間の経過と明日の天気も良さそうだと感じて歩を進めた。





ガサガサと新たな袋を持つあおいは、早歩きで家に向かう。


(何作るか決めてなかったから、時間かかっちゃった…和真さん、そろそろ帰ってくるかな?家についたら連絡しとこ…)


ようやくマンションが見えてくると、一旦立ち止まった。
小さく肩を揺らし、袋を持ち直すと、あおいはマンションの中へ入って行く。

703号室の前について、カバンからカードキーを取り出して開錠。
玄関のドアを開けた瞬間に、照明がついていたのだ。



「…え…あれ?」


驚くあおいは、足元にある和真の靴を見てサァっと血の気が引く。
慌てて靴を脱ぐと、リビングへ駆け込んだ。


「か、和真さん!?」

「おかえりなさい、あおいさん」


リビングに向かって声をかけたが、和真はキッチンから出てきて、あおいの帰宅を迎える。
すぐに和真に振り返ったあおいは、頭を下げた。


「ごめんなさい!!和真さんより遅くなって…っ!すぐにご飯を作ります!!ごめんなさい!」


すると、和真はあおいへ近づくと、ポンポンと頭を撫でる。


「僕がたまたま早かっただけですよ。それよりも、その袋…」

「あっ!夕食の食材です!」

「……」


黙ってしまった和真を不思議に思うものの、キッチンから何か匂いが漂ってくることに、今気づくあおい。
ソロソロとキッチンへ視線を向けて、和真へ視線を戻した。

後ろ頭をかきながら、顔を逸らす和真は恥ずかしそうに答える。


「…今日の夕食は、僕が作ってみました…」

「え!?本当ですか!?」

「はい。レシピを見て作ったので、味は大丈夫です。…食べていただければ…と…」


いつもの淡々と話す和真が、落ち着かない様子で言葉を失っていくことに、あおいは顔が熱くなった。
そして、パァッと明るくなる表情を見せるあおいは、すかさず和真に答える。


「食べたいです!お腹ペコペコです!」

「…用意しますね」


あおいの様子に微笑んだ和真は、キッチンへ戻っていった。


「私、着替えてきます」


リビングを出たあおいを確認すると、和真は赤くなる頬をかいた。
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