義兄と結婚生活を始めます
10話
…―
それから、翌朝の土曜日。
和真いわく、【水族館へのお出かけ】の日がやってくる。
セットアップコーデに身を包んでいる和真は、靴を履いて玄関に立っていた。
すると、パタパタと足音を立てて、桜色のワンピースを着たあおいが来る。
「ごめんなさい!お待たせしました!」
「問題ありません」
あおいが来た瞬間から、じっと見つめる和真。
靴を履き終えてもなお、あおいを見続けた。
和真の視線に気づいていたあおいは、和真を見上げる。
「…あの…やっぱり変ですか…服…?」
「…あ、すみません。とても似合っていたので、見惚れてしまいました」
ボボッとあおいの顔が真っ赤になる様子を見て、和真は思わず笑ってしまった。
「…ふっ…」
まるで和真がからかっているような様子に、あおいは衝撃を受ける。
しかし、いつもよりも柔らかな空気をまとっている和真に、あおいは微笑んだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
和真が玄関のドアを開けて出ると、あおいも後に続いた。
それから、車に乗り込んでシートベルトを締めるあおい。
運転席の和真も用意ができたのかエンジンをかけた。
「発進していいですか?」
「はいっ、大丈夫です」
車は進み、マンションの駐車場から出ると、すぐに大通りに出て走り始める。
助手席から流れる景色を見ていたあおいは、ふと考えた。
(…あの日とは全然違う景色に見える…)
結婚式の後に乗った日のことを思い出すあおいは、見えてくる街並みがとても穏やかであると感じる。
車内の沈黙も苦ではない…不安に感じていたはずの自分が、こんなにも変化していることがとても不思議だった。
(むしろ、居心地よく感じる…)
「…実は僕、初めてあおいさんを乗せた日は、とても緊張していました」
「え?」
「10代の女性を乗せるなんて経験がなくて…何を話せばいいのか、全くわかりませんでした」
和真からの告白に驚くものの、あの日は和真も同じ気持ちであったことに、嬉しさを感じてくる。
「そんな素振り…全然感じなかった…意外です…」
「きっと、あおいさんも不安だったでしょうから…僕の話し方ではさらに不安にさせてしまうと思ったので、黙っていました」
「……い、今も…ですか…?」
あおいの質問と共に、赤信号の前で車が停まった。
和真は、顔をあおいに向けて、優しく笑いかける。
「今は、あおいさんの隣は、とても居心地が良いと感じています」
温かい眼差しを向けてくれる和真に、返事ができないあおい。
ちょうどよく、信号は青に変わり車が発進する。
和真も前を向いて、運転を再開した。
あおいも、景色を見ようと和真から顔を逸らす。
しかし、窓に映っていたのは、真っ赤な顔の自分だった。
心音が早くなるのを感じていたあおい。