義兄と結婚生活を始めます
「少し、寄りたいところがあるので、向かいますね」
「どこに行くんですか?」
「僕が気に入っているベーカリーに行こうかと思っています」
和真の言葉に、朝食も取らず、朝早く出た意味を理解した。
すると、あおいのお腹の音がキュルル…と鳴る。
(聞かれてない…よね…?)
恥ずかしさを感じるあおいは、お腹に手を当てて横目で和真を見た。
特に、気にされていない様子から、あおいはホッとする。
数分後、パン屋の駐車場に入って、車が停まった。
「着きました。今なら焼き立てがあるはずです」
スマホを取り出して、時間を確認した和真は、車を降りてあおいがいる助手席へ回る。
ドアを開けてあおいへ手を差し出した。
「ありがとうございます」
和真の手を取って、降りたあおいはパン屋の外観を見上げた。
パンが焼ける良い匂いが漂いに、あおいは楽しみになる。
「良い匂いがしますね!おすすめのパンってありますか?」
「そうですね。クロワッサンとバターロールですが、メロンパンも人気なようなので、あおいさんは気に入るかもしれません」
「楽しみです」
教えてくれる情報に、フワフワなパンを想像するあおい。
さっそく店内に入って、トングとトレーを持った和真に、店員が出迎えの挨拶をした。
「僕が取るので、食べたいパンがあったら言ってください」
「わかりました」
空腹なあおいは、どのパンも美味しそうに見える。
(うーん…和真さんのおすすめを選ぶとして…全部美味しそう~)
キョロキョロしてパンを選ぶあおいの後ろを和真はついて歩いた。
時折、見えてくるあおいのキラキラした表情を見て、微笑ましく感じる。
「…じゃあ…クロワッサンとメロンパンと~…わっ、チーズとハムが入ってるのもいいなぁ~…!」
「黒コショウがアクセントになって、美味しいですよ」
「これにします!」
明るい表情でパンを指さしたあおい。
和真はクスっと笑って、指定されたパンを取る。
会計へ向かう途中、自分が食べるバターロールとコーヒー、オレンジジュースを注文して、支払いを済ませた。
店を出て車に戻った二人は、各々シートベルトを締める。
自分たちの飲み物をドリンクホルダーへ入れた後、購入したパンを紙袋から取り出した。
しかし、あおいは申し訳なさそうな表情で縮こまってしまう。
「食べてから出発しましょう」
「お会計、ありがとうございます。後で」
「要りません。そのかわり、あおいさんにはこちらを」
和真に手渡されたクロワッサンの匂いに、お腹が刺激される。
キュルル……
「…っ……き…聞こえました…?」
「はい。先ほどから聞こえてましたよ。食べてお腹を満たしてあげましょう」
お腹の音を隠せなかったことに恥ずかしさを感じつつも、あおいはクロワッサンを一口食べた。