義兄と結婚生活を始めます
…―
食事を終えると、食器は片付けられて食後のドリンクが運ばれていた。
「美味しかったです。お腹いっぱい…」
「それは良かったです。デザートを頼みましょうか?」
「あ…これ以上は…大丈夫です」
メニュー表を取りかけた和真は、首を振ったあおいを見て、手を引っ込める。
代わりにコーヒーカップを持ち、一口飲んだ。
「…ここはデザートも美味しいので、次に来たときは一緒に食べましょう」
コーヒーカップから口を離した和真は、あおいに微笑みかけた。
和真の言葉の意味を考えると、あおいは口を開く。
「え…また一緒にお出かけする…ってことですか…?」
「あおいさんが嫌でなければ」
(また…一緒に…)
顔を赤くしながらも、嬉しさから思わず笑顔を見せるあおい。
「その顔は、嫌じゃない…って解釈しても良いですか?あおいさんの気持ちが知りたいです」
「…また…和真さんとお出かけしたい、です…」
「次は、あおいさんが行きたいところに行きましょう」
照れながら伝えてくれるあおいに対して、和真も嬉しそうに笑った。
一日でたくさん笑ってくれるようになった和真。
あおいは、本当に嬉しくて、楽しい明日を想像する。
「…あの、良かったらこれを…」
和真は、包装紙に包まれた細長い物を差し出した。
受け取ったあおいは、不思議そうに包装紙から和真へ視線を向ける。
「本当は、もう少しいい物を、と思っていたのですが…高価な物は受け取ってもらえないと思い…」
最後の言葉を小さく終えた和真。
あおいは、包装紙を開けて中身を取り出す。
出てきたのは、薄いピンク色のペンギン柄のボールペンだった。
黙ったままじっと見つめるあおいに、和真はソワソワした感覚になる。
「あの、ぬいぐるみやキーホルダーなどもあったのですが、好みがわからず…ですね…。文房具でしたら普段使いしていただけるかと…」
「ありがとうございます!嬉しいです!…ペンギンを見る度に、今日の和真さんを思い出せますね」
満面の笑顔になったあおいは、何度もお礼と感謝を伝えた。
同時に、いつの間にか行っていたお土産コーナーで、悩んでくれた和真の姿を想像する。
「絶対、大切にします」
大事そうに包装紙に包み直すと、あおいはカバンにボールペンを入れた。
ホッとする和真は、残ったコーヒーを飲み干すと、来ていたコートを取る。
「そろそろ出ましょうか。…帰る時間も丁度いいので、ゆっくり休めますよ」
「はい」
腕時計で時間を確認した和真を見て、あおいも帰り支度を始めた。
あおいの支度を待っていると、和真たちのいるテーブル前て、一人の女性が立ち止まる。
「……和真…?」
あおいも和真も、聞こえてきた方へ顔を向けて、声の主を見上げた。
珍しく驚きを見せる和真が口を開く。
「由梨子…」
あおいも、由梨子と呼ばれる女性を見上げた。