義兄と結婚生活を始めます
「…お…さん…あおいさん?」
聞こえてきた和真の声で、ハッとするあおい。
すぐに顔を上げると、和真へ向けた。
赤信号で止まっていたようで、心配そうな表情で見つめてくる。
「あっ…ご、ごめんなさい!ボーッとしてて…」
「すみません。由梨子のことは気にしないでください」
和真の言葉を聞いて、あおいは視線が落ちていった。
先ほどまで感じていたモヤモヤと合わせて、自分の気持ちが沈んでいることに気づく。
青信号に変わったことで、車が進み始めると、肩でため息をついた和真。
「由梨子は昔からストレートな物言いなんです。強気な性格も相まっているので、あおいさんにはきつく感じたかと」
「いえ……大丈夫、です…」
あおいは、嘘を含めた返事をした後、唇をキュッと閉じた。
和真の言葉の意味が、由梨子を庇っているようで…深い関係だったことを言われているようにも感じる。
(元カノを悪く思われるのは嫌だよね…)
泣きそうな気持ちになってくるあおい。
運転する和真は、あおいの表情や考えに気づくはずもなく、そのまま話を続けた。
「小鳥遊の中でも手を焼いているほどで…僕も子どもの頃は由梨子が苦手でした」
全ての感情がピタリと止まると、あおいは和真へ顔を向ける。
「え…?あの…由梨子さんって…」
「僕の従姉妹です」
「へ!?」
和真の返事に驚くあおい。
途端に誤解していた自分が恥ずかしくなった。
「でもっ、あのっ、結婚式にいなかったですよね!?」
「僕も後から聞きましたが、海外出張に行っていたそうです」
「そうなんですね!…びっくりしました…あはは…」
ホッとしたあおいは、熱くなる顔を手で仰ぐ。
ただ、自分の感じた感情よりも、由梨子の敵意ある目に対して、引っかかるものがあった。
…ー
それから、無事自宅についた和真とあおい。
和真は自室へ向かい、あおいはお湯を沸かしにキッチンへ向かった。
手洗いを済ませて、ポットに水道水を入れていく。
温め始めていると、ふぅっと小さく息を吐いた。
(すごく濃い1日だったなぁ…)
最初の緊張から、嘘のように楽しい時間を感じていた自分に少し驚いていた。
ただし、由梨子とのことも気がかりに感じる。
「僕もお湯をいただいていいですか?」
キッチンに入ってきた和真の声に、顔を上げたあおい。
自然に隣に来てくれる和真に対して、ドキッとする。
「和真さんが飲むかと思って沸かしてたので、大丈夫ですっ」
「ありがとうございます」
柔らかな笑顔を返してくれる和真は、取り出したコーヒーカップを台へ置いた。