義兄と結婚生活を始めます
和真は、あおいの頭にポンッと手を置くと、腰を落として目線を合わせてくれる。
真剣な眼差しであおいを見つめた。
「でも、本当に由梨子とは従姉妹なだけで、何もありません。信じてください」
「は、はい…」
あおいの返事を聞いて安心した和真は、姿勢を直す。
そして、ピーピーと鳴っていたケトルの音を止めるため、コンロのスイッチを消した。
「さぁ、今日は朝も早かったですから、休まれてください」
「はい。…あの、和真さん。今日はありがとうございました……ま、また…お出かけ、しましょう…」
「はい。ぜひ。おやすみなさい」
恥ずかしそうに気持ちを伝えてくれるあおいへ笑みをこぼし、パタパタと自室へ戻っていく後ろ姿を見送る和真。
コーヒーカップへお湯を注ぐ和真は、微かに聞こえてきたあおいの部屋のドアが閉まるのを確認した。
「…ふー…」
注ぎ終わったケトルを持ったまま俯く。
カップの水面には、顔を赤くした和真の表情が映っていた。
…ー
日付を回りそうな深夜の時間に、バッグを肩にかけて街中を歩く由梨子。
ヒールのコツコツという音を鳴らしつつ、大通りを走るタクシーを捕まえようと手を挙げた。
すぐさま止まったタクシーに乗り込むと、バッグの中から聞こえてくる着信音に反応した。
「お疲れ様です。小鳥遊です。はい、はい……データは送っていますので、確認していただければ…はい。お疲れ様です」
「お客さん、どちらまで?」
「駅に向かってちょうだい」
運転手へ伝えると、手足を各々組んで、通り過ぎていく景色を見つめる由梨子。
和真のことを思い返して、嬉しそうな笑みを浮かべた。
しかし、同時にあおいのことも思い出して、大きなため息と怒りを感じ始めたのだ。
「…どうして私がいない間に……っ」
ついには舌打ちまでする由梨子だが、ふと何かに気づき膝に置いていたスマホを手に取る。
連絡先の画面をスクロールしてタップすると、耳元はスマホを当てた。
コール音をしばらく聞きながら、窓からの景色を再度眺める。
すると、コール音が止まり、電話越しの相手の返事を聞かずに由梨子は口を開いた。
「由梨子よ。至急、おじ様に繋いで。和真のことでお願いがあるの」
静かに言い放つ言葉だったが、その声音は怒りに震えていた。