義兄と結婚生活を始めます

和真は、あおいの頭にポンッと手を置くと、腰を落として目線を合わせてくれる。
真剣な眼差しであおいを見つめた。


「でも、本当に由梨子とは従姉妹なだけで、何もありません。信じてください」

「は、はい…」


あおいの返事を聞いて安心した和真は、姿勢を直す。
そして、ピーピーと鳴っていたケトルの音を止めるため、コンロのスイッチを消した。


「さぁ、今日は朝も早かったですから、休まれてください」

「はい。…あの、和真さん。今日はありがとうございました……ま、また…お出かけ、しましょう…」

「はい。ぜひ。おやすみなさい」


恥ずかしそうに気持ちを伝えてくれるあおいへ笑みをこぼし、パタパタと自室へ戻っていく後ろ姿を見送る和真。

コーヒーカップへお湯を注ぐ和真は、微かに聞こえてきたあおいの部屋のドアが閉まるのを確認した。


「…ふー…」


注ぎ終わったケトルを持ったまま俯く。
カップの水面には、顔を赤くした和真の表情が映っていた。
















…ー

日付を回りそうな深夜の時間に、バッグを肩にかけて街中を歩く由梨子。
ヒールのコツコツという音を鳴らしつつ、大通りを走るタクシーを捕まえようと手を挙げた。

すぐさま止まったタクシーに乗り込むと、バッグの中から聞こえてくる着信音に反応した。


「お疲れ様です。小鳥遊です。はい、はい……データは送っていますので、確認していただければ…はい。お疲れ様です」

「お客さん、どちらまで?」

「駅に向かってちょうだい」


運転手へ伝えると、手足を各々組んで、通り過ぎていく景色を見つめる由梨子。
和真のことを思い返して、嬉しそうな笑みを浮かべた。

しかし、同時にあおいのことも思い出して、大きなため息と怒りを感じ始めたのだ。


「…どうして私がいない間に……っ」


ついには舌打ちまでする由梨子だが、ふと何かに気づき膝に置いていたスマホを手に取る。
連絡先の画面をスクロールしてタップすると、耳元はスマホを当てた。

コール音をしばらく聞きながら、窓からの景色を再度眺める。
すると、コール音が止まり、電話越しの相手の返事を聞かずに由梨子は口を開いた。


「由梨子よ。至急、おじ様に繋いで。和真のことでお願いがあるの」


静かに言い放つ言葉だったが、その声音は怒りに震えていた。







< 59 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop