義兄と結婚生活を始めます
しばらくして、担任が教室に入ってきた。
「みなさんおはようございます。本日の連絡事項ですが…—」
朝のホームルームが始まると、明望学園の生活がスタートしたことを実感するあおい。
…—
車を降りた和真は、自社に入るとエレベーターを待った。
「…っす、はよ…」
「おはようございます。また喧嘩ですか?」
「…違います―。親父がただうるさいだけですぅー…」
ちょうどよくエレベーターの扉が開くと、気だるそうな涼介と一緒に乗り込む。
涼介を横目に見ると、本当に気が重そうな様子で、ため息ばかりが聞こえてきた。
「あまり横で不景気な息をこぼさないでください」
「え~、俺の愚痴くらい聞いてよ~…」
「……少しくらいなら…」
ぼそりと承諾すると、一層大きなため息をこぼした。
「親父が和真の結婚の話聞いて、見合い話を頻繁に出すようになったんだよ…どうしてくれんの」
「それ、僕のせいなんですか。社長に言ってくださいよ」
「俺は俺のタイミングで彼女作って結婚したいのにさ~…あーやだやだ」
エレベーターが目的の階に止まるまで、涼介の愚痴は続いた。
すでに聞き流すだけの和真は、相槌もすることなく黙って前を見つめる。
ようやく階につくと、周囲の人を分けて二人は降りた。
オフィスの廊下を歩きながら、涼介は思い出すように話題を振った。
「そういえば、あおいちゃんとどうなの?昨日、入学式だったんだろ?」
「どう……と言われましても…。特には…」
「いやいや、あの明望だぞ?ごますり多いじゃん。あ、あとあれ。結婚のこと。ごまかしてんの?」
「そのまま、僕の妻であることを説明してもらうようです」
今朝のあおいの様子を思い返しながら、先にオフィスのドアを開ける涼介の後に続く。
どうしているだろうか、無理をしていないだろうかと考えているところへ、ある人物が出迎えた。
「和真!涼介くん、久しぶりね」
「え……え!?由梨子ちゃん!?あれ!?海外行ってなかった!?」
「んふふ~戻ってきたの~。大学以来よね。変わらなくて安心したわ!」
突然の由梨子の登場に、和真は出入り口で固まったままだ。
そして少し眉間にしわを寄せて由梨子を見ると、今度は和真がため息をつく。
「はぁー……社長に何か言いましたね?」
「まだ自分の父親のことそんな風に呼んでるの?お父さんって言ってあげた方が喜ぶわよ?」
「質問に答えてください」
和真の質問に関係のない質問で返す由梨子は、にんまりと笑った。
再度ため息をつくと、そのまま二人の間を抜けて、自分のデスクに座る。
コツコツと、ヒールの音を響かせながら、由梨子がついてきた。
「怒らないで。おじ様にお願いしたの。海外から戻ったばかりだし、和真の方が仕事早いから教えてもらいたいって。不安だったの!ごめんね?」
「……僕が教えることはありませんよ。社長の付き添いも入ってきますし、指導係を代わりに」
「おじ様がいいって言ってくださったの。それに、昨日確認したら和真の代わりの人を付けるって言ってたわ」
由梨子の言葉を聞いてから、スマホを取り出した和真は何回か画面をタップし、画面から顔を離す。
じっと由梨子を見ているあたり、社長からの通知が入っていたようだ。