義兄と結婚生活を始めます
あおいの父親は、なんとか口を動かして言葉を紡ぐ。
「…そ…それは…できかねます…っ、未成年なので…!」
「先ほど、本人の口から聞きたいと、私は言った…が、その本人はいない」
反論しようとすることを見越してなのか、小鳥遊社長は重みを持った口調になった。
「小鳥遊家の親族だけではなく、他の企業にも妹さんの顔は見られた……すぐに離婚したり、別居したりすると世間体に関わる」
「しかし…!!」
「海崎すみれさんがいないとわかれば、怪しむ者も出てくる……これは責任を問うている」
火傷をしたようなヒリつく空気に、父親は押し黙るしかなかった。
母親が和真を見る。
「あの…和真さんは、どのように考えていますか…?」
「問題ありません」
「え…!?」
想定していなかった答えに、あおいと母親が同時に声を出した。
表情も声音も一切変わらない和真。
ふと、あおいは和真の瞳に見入ってしまったのだ。
(……この人…)
「あおいさん…と言ったね?君はどうだい?」
小鳥遊社長に問われると、ハッと我に返る。
自分の意思を聞かれるとは思っていなかったあとい。
下を向きかけるものの、顔を上げた。
「…お父さんが仕事を辞めないで済むのなら…小鳥遊さんと生活させてください…!」
「あおい…」
「……っ、くっ…ふっはっはっはっ!長女だけが才女というわけではないのだな!恐れ入ったよ海崎くん!」
あおいの答えに、不安そうな両親とは逆に、小鳥遊社長が大笑いした。
ひと通り笑った社長は、ふぅっと息をはいてあおいを見る。
「約束しよう!君のお父さんは絶対にクビにも左遷にもしない、相応の責任と相殺して現状を維持してもらう」
「ありがとうございます…!!」
「ただし…」
ひと山超えたことを感じるあおいたち家族に、社長は一言付け加えた。
まだ絶望は続いているのか、とあおいたちの表情が一気に曇る。
「すみれさん本人が見つかり、理由次第では話し合いの場を再度設けたい…良いかね?」
「それは…もちろん…」
力なく答える父親だが、母親やあおいへ顔を向けて無理に了承を得た。
最先に不安は残るものの、この話し合いは一旦まとまったのだ。
社長は再び笑顔を見せると、和真の背中をポンっと叩く。
「…では、行きましょう」
「え…?」
席から立ち上がった和真は、あおいの隣へ行くと式のときのように、腕を差し出した。
驚くあおいは和真を見るが、何も語らずにじっとあおいを見つめ返す。
「あおい、先に出てなさい…」
「…う、うん…」
和真の腕に手を置き立ち上がると、一緒に親族控室を出て行った。
2人を見送った両家だが、社長は父親へ笑う。
「賢いお嬢さんだ…条件を出した私に、自分もしっかり約束をさせ、父親の立ち位置を確約した…実に素晴らしいね」
「…!」
小鳥遊社長の言葉に、父親は目を伏せる他なかった。