義兄と結婚生活を始めます

和真に連れられる形で、式場から出て行くと外はすでに夜になっていた。

ロビーで待つものだと思っていたあおいは、戸惑いながら和真を見上げた。


「…あの…っ、待ってないと…」

「親族や関係者がまだ残っていますから…声をかけられたら困ります」


特にあおいを見ることもなく、答える和真。
しかし、突然立ち止まる。


「どうかしたんですか?」

「…失礼」


自分の上着を脱ぐと、あおいの肩にフワリとかけた。
一瞬のようにも感じたあおいは、慌ててしまう。

かけられたスーツの上着はあおいの腰下まで隠してしまうだけではなく、和真の温もりや匂いまでもを感じさせた。



「さすがにまだ肌寒いので…未成年の女の子に風邪を引かれると監督責任に問われます」

「監督、責任…えっと、小鳥遊さんは何歳ですか?」

「26です」


まるで、頭をぶつけたかのような衝撃があおいの中で走った。


(私は今年16だけど、10個も上…!!これが大人…!!)


ポカンとしたままのあおいへ、和真は進むよう促す。
歩き出した和真の後を、あおいは小走りでついていった。


駐車場につくと、それなりに高級であろう車がある。

ピッ


「こちらへ」


機械音を感じてすぐだったので、あおいは和真が隣に移動していることに驚いた。
車の助手席を開けて待つ和真。

動かないあおいに小首を傾げる。


「乗らないんですか?」

「へぁ!?は、はい!」


急いで和真の元へ行き、助手席に座るまで手を添えてくれていた。
運転席側のドアを開き、乗り込んだ和真。

ドアが閉まる直前、その距離の近さよりも、これからの気まずい空間に、あおいは不安を感じる。


エンジンをかけた和真は、あおいの方へ手を伸ばした。
突然のことに、あおいは身構えるように体が硬直する。


「あぁ…すみません…シートベルトが捩れていたので、驚かせました」

「いえ!大丈夫です!!」


パッと窓側へ顔を向けるあおい。
式のときの、誓いのキスのことを思い出してしまった。


顔が火照り切る前に、あおいから話題を切り出す。


「あのっ…!た、小鳥遊さんって、お姉ちゃんとどのくらい付き合っていたんですか?」

「会ったことはありません」

「なるほ………ん?」


車の運転を始めた和真は、まっすぐ前を見つめたまま続けた。


「海崎さんとの結婚は前日に聞きました」

「前日!?」

「はい、なので、会ったことはないです」


淡々と話す和真だが、話題を出したあおいの方が混乱しそうだった。


(え…どういうこと…?それじゃあお姉ちゃんは…)


沈黙だけが続く車内。
自分に知らされていない情報を聞こうと、あおいは話を続けた。


「あの…どうして、そんな結婚を了承したんですか?会ったこともない相手とだなんて…」

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