義兄と結婚生活を始めます
業務を進めていた和真はふと時計を見て、デスクから立ち上がる。
そして由梨子のデスクに手を置いた。
「由梨子、そこまでにしてお昼に行きましょう」
「え!?えぇ…!行くわ!」
「休憩に入ります」
驚きと共に頬をほんのり赤くさせた由梨子。
すぐにキーボードから手を離すと、鞄を持って立ち上がる。
通りかかった人へ伝える和真は、そのままドアを開けてエレベーターへ向かった。
それに続いて歩く由梨子の足取りは、嬉しさからとても軽い。
すぐに和真の隣について歩く由梨子は、横切る女子社員の羨望の眼差しを感じつつ、耳に入ってくるヒソヒソ話の声に気づいた。
「美男美女よね〜」
「和真様かっこいいし、隣の人も細くてきれ〜。ご結婚されたって聞いたし、あの人かな?」
エレベーターへ乗り込んだ後も、ニコニコとした表情をしていたが、内心は穏やかでなかった。
自社を出て外を並んで歩く二人は、街行く人の視線を集める。
肩にかけた鞄を持つ手に力が入る由梨子は、固唾を飲んだ後、和真に声をかけた。
「ね、ねぇ、和真…」
「ここにしましょう。涼介と行った店、美味しかったです」
「えぇ…」
呼びかけに気づいているのかいないのか、和真は構わず歩いて店に入った。
席へ案内されると、すぐにメニュー表を取って選び始める和真。
由梨子もメニュー表を取って選ぶ素振りを見せるが、視線はついつい和真へ移ってしまう。
そこへ、和真も由梨子を見てきたため、バチっと目が合った。
「決まりましたか?」
「決まったわ!ランチのAにサラダとスープを付けて!」
和真は店員を呼び、自分と由梨子の分の注文を伝えた。
手拭きできっちりと手を拭いている和真の向かいで、ずっとドキドキしている由梨子。
しかし、ハッと気づいた由梨子は、和馬へ以前会ったときの話を蒸し返した。
「和真、その…あの日の子…妻とか結婚とかって何…。私、何も聞いていないわ」
「海外に行っていたのですから、社長もわざわざ呼ばなかったのでしょう」
「そういうことじゃなくて!…どう見ても子どもじゃない!和真とは…!」
「……あおいさんをあまり悪く言わないでください。頑張ってくれている人です」
言いかけた由梨子は、和真の言葉を聞いてムッとした表情になる。
「ずいぶんと優しいのね。いつも無関心なくせに。結婚だっておじ様が勝手に決めたんでしょ?同情してるの?そのあおいさんに」
「していません。が……」
キッパリと否定した後、黙り込んでしまった和真は口元を手で隠すようにそのまま頬杖をつく。
しかし、由梨子は見逃さなかった。
和真が柔らかさと照れを交えた表情を見せたことにー。
由梨子は口を開きかけたが、注文した料理が届けられたことで、グッと堪えるしかなかった。