義兄と結婚生活を始めます
「どうしてまだいるんですか?早く退勤してください」
「嫌よ。和真と退勤したい。あと、もう退勤ボタンは押したわ」
「…僕は予定があるので無理です。サービス残業もさせませんので、自分の分が終わったのであれば速やかに帰宅してください」
「~~っ、小鳥遊のご実家の方で待ってるから、一緒に夕飯を食べましょう?積もる話もあるし」
「ありません。予定があると言いましたし、僕は自分の家があるので、もう実家には帰りません。以上です」
両者は一歩も引かないため、話も平行線に感じたが、とうとう由梨子が折れた。
ため息をついて鞄を持って立ち上がる。
「…お疲れ様、和真」
「はい、お疲れ様です」
由梨子の顔すら見ずに返事をした和真は、コツコツとヒール音が遠のくのを確認した後、小さく息を吐いた。
書類をデスクに置くと、今度は後ろから声をかけられる。
「なんか疲れてんね」
「……久々の由梨子のペースに少し気圧されました…」
「は~…あの和真をねぇ…おもしろーい」
「人で楽しまないでください」
「でも、あんなにささくれてたかね?海外で何かあったんかな」
涼介は缶コーヒーを和真へ差し入れると、話題を切り替えてウキウキし始めた。
「で、予定って?あおいちゃんだろ?」
「本当に人で楽しむなら話しませんよ?」
「うそうそ、ごめんって。でも、あおいちゃん関係なのはほんと?」
「…初日の授業で疲れていると思いますので、今日は外食をしようと思っています」
各書類をまとめつつ、ホチキスで止めると時計を見て、パソコンの電源を落とす。
自分のコーヒーを飲むと、和真の肩へ手を乗せた。
「俺は、今日は和食の気分!」
「連れて行くわけないでしょう」
「え~~~。俺もあおいちゃん見てみたーい」
真剣な顔でリクエストする涼介の手を振り払うと、立ち上がって荷物と缶コーヒーを持った。
「どうせ、見に来るつもりなんでしょう」
「へへ、さすが」
「勝手にしてください」
隠し持っていた自分の鞄を見せると、和真はため息をこぼす。
そして二人は、一緒にオフィスを出て行った。
和真が指定した通り、自社前のロータリーに、すでに三森の運転する車が待機していた。
迷わず歩いて向かう和真に続いて、少しソワソワする涼介。
「やばい。見たいとか言ってたけど、現役高校生に緊張してきた」
「通報しますよ」
待っていた三森が会釈をすると、涼介が懐かしそうに話しかけた。
「三森さん!?うわ!久しぶりですね!」
「遠野様も息災で何よりです。本日はご一緒に乗られますか?」
「いえ、僕だけで。涼介はタクシーで帰ります」
「うそでしょ!?」