愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(でもなぁ……いかんせん待ち時間が長い。死刑判決を待つ囚人ってこういう気持ちなんだろうな)


 ものごとには適切なときと場合があるというのはわかっている。それでも、結果がわからないことには、落ち着かないのが人間というもので……。


「ハルト様、よろしければこのあと、寄り道をしてもいいですか? 行きたいところがあるのです」

「ん? ……ああ、もちろん構わないよ」


 目的の半分は達成しているのだし、クラルテの行きたい場所に行くのが一番だ。それに、プロポーズでいっぱいになった頭をリセットできそうで、正直とてもありがたい。


 店を出てクラルテが向かったのは、王都の外れにある住宅街だった。貴族ではない中流階級の人たちが暮らすエリアで、住宅が密集しているせいか火事も多いので、仕事では何度も訪れている場所だ。


(この辺にはあまり店はないはずだが……クラルテはどこに行きたいのだろう?)


 首を傾げていたら、クラルテはおもむろに立ち止まり、ニコリと微笑んだ。


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